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3 【真夏の土砂降り】

 3


 車の振動で肩が揺られて肩のこりに気づき始める案山子に容赦なく降り注ぐ雨。


「なぁ、なんでだよ」


 案山子の不満ももっともで、覆面捜査車両の黒いリッチなボディの見た目とは裏腹に助手席の窓ガラスはなかった。運悪く今日は全くのざぁざぁ雨で全くといっていいほど真夏の歓喜を感じられなかった。

 運転席の水面元は自分は運転しているから何も悪くない、もっぱらバランスがとれているだろうと考えているような態度だ。しかし少し罪悪感があるのかエンジンをかけてからはずっと無口である。

 覆面捜査車両は見た目はタクシーか高級車どっちともとれる形で後部座席には予備バッテリーやガジェットであふれていて座る余裕はとうにない。それ以上に後ろに乗るためのドアがない。だからこそ案山子は助手席に座るしかなかったのだ。

 車内であるにも関わらず完全防備の案山子を横目に、水面元は今回の犯行について考えていた。


 おかしい部分はいうつともあった。まず、犯人の痕跡が一切ないという報告。水面元自身も現場には普通の警官より立ち会っていると自負しているがなにより検察を生業にしている専門職より検察がうまいとまではうぬぼれていなかった。自分が捜査したところで何も新しい発見はないだろうと。しかし現場にはいかなくてはならない。じけんかいけつのために。

 まずは検察ではわからない事件の匂いだ。雑にいえば勘である。簡単にいえて簡単にうけとれるが、水面元はこの曖昧な部分を重要視している。なにもできないことがあることは他の専門に任せて自分にしかできない才能を発揮するために現場に向かっているのだ。


 ドライブインは下から見上げるとえらく高級な屋根がついていた。ホテルも素材負けの空気感を演出している。ずいぶんとエントランスにしては長いラウンドアバウトを回ると入り口について。日の光でびかびかとセンスを問うか問わないかギリギリの曖昧さを醸し出している。とてもうまい建築であることも水面元にはくみ取れた、専門ではないにせよ。


 気だったスーツの管理人らしき人物が出迎えた。どうやら引っ切りに警察車両がくるためにエントランスで待機して挨拶はしていたようだ。紺のジャケットはしわ一つなく、上から下まで何の欠損もない完璧な状態だった。

 路駐されたどでかい警察車両のケツに駐車し。てくてくと間抜けに歩き出した。

 こちら側の企みもすでにあちら側にはしれているのだろう、しかしそんなことで気になるほど私も柔ではない。何をしてでもこんなことをおわらせなければいけないなんてことはない、だけど私が思うに終わるべきことだと思う。これはただ単に僕の独断の美学だ。しかし人間にこの美学がなければ戦争で戦った天国にいるおじいちゃんと話すこと以前にこのうきよで話すこともない。ただ単にできることがないのだ。


 そうしていると管理人は少し駆けスキップのようにでこちらに駆け寄ってきて話しかけてきた。


「警察の方ですね、509号室の軒についてですね、ご案内します」


 何度この下りを繰り返したのか、スムーズに対応され私は入り口に入っていった。


 赤いカーペットの上を這うように使用人、いや、管理人は通路を案内してくれた。事件があった部屋にまっすぐ。

「ここです」

 案内された先にはアパートという日常にへばりつく検察のブルーシーツや青い制服がまき散らされている。まるで完璧な人工物であるアパート建築に人間の殺人事件というばい菌が入ったため治療しているように見えた。


 室内に入ると箱が足にあたり足の踏み場がなかった。箱を乱暴に横に蹴りどけてやっと部屋に入ることができた。

 一見なにも証拠も残っていない。この普通の景色が逆に生ぬるい危険と狂気が入るための隙間が十分あった。

「証拠品はすでに箱に詰めてありますが怪しい跡や血痕はありませんでした」

 検視がせかすように話した。というのもこの事件で行方不明の被害者は見つかっておらず、部屋にも事件の根拠が見つからなかったからである。


「水面元さん」


 案山子は半信半疑でありながらも部屋の捜査をしたくてうずうずしていた。こいつのいいところはこの何事にも疑いをかけることだ。

 怪しい事柄にも半分勘違いの可能性も頭に入れ、反対に何もないようなことにもなにか自分の思い違いがあるのかもしれない、見落としているのかもしれないと疑いを頭の片隅に入れているのだ。

 その個性を見抜き水面元もまず床に膝を立てて視線を低くしてみた。同時にGOがでたように案山子も壁を這うように見ていった。

 本当に何もない、匂いもしない、まるで存在しないのだった。

 少しすれている床も水面元の部屋にあるような椅子のずればかりでDNA鑑定にも期待できないほど、{綺麗}だった。

 しばらく床を凝視していても何も見つからず、検視は端から腕を組みながら腕時計をいじっていた。

 案山子も壁、天井、床、ドアの取っ手まですべてをなめ尽くすように観察しても何もありませんと首を横に振った。


 水面元は自分のことを集中型、一見集中型と自負しており、物事のすべてをまんべんなく見渡すことは苦手としており、それと別にマルチタスクはにがてとしていた。一方で案山子は水面元よりかは深く観察は難しくても全体を見渡し効率よく進めおわらせることは得意である。

 その両方が組み合わさりなにか手がかりを探しても見つからない場合はよっぽどのことがない限り本当に何もないのだ。それを知っていてか部長はこのように少し気になる事件へ念のため二人に足を運ばせてチェックさせることがある。


 検視に見送られやっぱりやれやれという雰囲気を醸し出されながら部屋の外にでた二人。いつものことなので気にはしないが、なにか引っかかることには心にとめていた。二人とも。


 車内で一服をしながら二人はしばらくの間言葉を交さず、そしてほぼ同時に言葉を発した。

「匂いありましたね」

「殺人だな」

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