1 【デカ】
1 デカ
水面元はこう見えてモデル体型だった。かかとまで伸びるダッフルコート鬼真夏の日光を吸収する真黒な服装。バカンスの沖縄旅行でこんがり焼けた日焼けもただの一時的なひやけである。
彼女はいつものように公安の事務作業をこなしていた。報告書、報告書、そして丘の向こうの報告書。それは可憐な指のタイピングですんなりとミスもなくこなされていく。
「さすがはタイピング日本大会一位、ついでにおれの報告書もだしといてくれないか?」
セパレーターごしから声が聞こえた。ふと見あげるとそこには隣の部署の案山子がいた。
「のぞきならよそでやってくれませんか?」
彼はサボり癖があるわけではないのだが、どうしても数分ごとに息抜きが必要ならしい。こんな調子で数分に一回は話しかけてくる。
「暇だな」
だめだこいつ。仕事を時給で考えるバイト脳を社会人になっていまだに抜けていない。
水面元は再度に指を動かしていた。
彼女の指は可憐に、そして優雅にまた一つの報告書にとりかかった。
「水面元、いるか」
水面元は一度報告書を書く手を止めた。暇人と違うところは仕事の片手間に仕事をしていることだ。部長は眉間にしわを寄せながらコーヒーをすすりながら水面元のキュービクルのセパレーターから顔を出した。
「水面元」
「なんですか部長」
あからさまにぶっきらぼうな返事に金崎部長は顔色一つも変えずに任務を言い渡した。
「練馬区のアパートで殺人事件だ。証拠が全く見つからない。名探偵のおまえ向きの任務だ」
「YO名探偵YOO」
案山子は喫煙所にいこうか少しの間くらいは喫煙をしようか考えながらオフィス全体を見下していた。
「おまえもだ、案山子」
案山子はあからさまにぶっきらぼうに一度しかとを食らわせた。一応金崎は上司である。
話の後は部長はコーヒーをすすった後「なにか質問は?」と訴えかけるように無言で二人を見渡した。案の定何も出てこなかったため一度何もなかったかのようにオフィスをドアから出て行った。何もなかったかのように。
二人はしばらく見つめ合った後、一人は喫煙所へ、彼女はキーボードに手を宿し、報告書を完璧に仕上げて一日がおわった。