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第二章 第5節 青き反論

「先生のお話、理解できる部分は多々あります。自己責任という言葉の呪縛は消し去る必要は間違いなくあると思います。同感です。また夢を無くした子供たちの自殺などはあまりにも悲しすぎます。しかしですよ、もし、ライフ・ケアなるものが自殺を考える者たちの駆け込み寺と言うのでしたら、自殺をするための施設など、どんな理由をつけても不必要ですよ。飽くまでもそういう者たちの『保護復帰施設』とする設計であらなければならないのではないですか? セーフティ・ネットは名ばかりのものであり、結局のところ、そのライフ・ケア・ステーションというのは日本社会に非適応となった人間を処分するための施設としか私には理解できません。積極的安楽死の受け入れという概念は医療施設側の都合を受けてだろうとは安易に想像はできますよ。しかしそれに乗じて希死念慮(きしねんりょ)(死ななくてはいけないと思うこと)を持つ人々を死へと導くきっかけ作りとして作用させようとしているのではないのですか?」

 如月先生は口を一文字に閉じ、目をつむったままだ。その先生に私は言葉をぶつけ続けた。

「先生、今日本では積極的にエリート移民を受け入れていますよね? どうも私はこの件が引っ掛かって仕方ないのです。エリート移民を大量に受け入れることで人口減少の歯止めをかけるとともに国力増強のためなどと言っていますが、私はエリート移民に弾かれ、現状の日本社会システムに馴染まない人々を不適合者として自らを追い込もうとしているとしか私には考えられないのです。自らを不適合者と思わせ、そして自分自身で命の処理をしてしまおうという弱者の選別処理施設。それは弱肉強食経済社会の推進。この経済戦争社会での敗者は生きている価値は無いと決定づけさせる。そんな施設の所長になどに私がなると言うわけないじゃないですか。先生はしばらくお会いしなかった間に考え方が変わってしまったのですか? 長いものに巻きつかれてしまいましたか?」

 私は酒の力も加わってか私の口は止まらなかった。

「私は今でもはっきり覚えています。今からもう20年近くも前になりますが先生は私たち生徒に向って恥ずかしげもなくハッキリとおっしゃりましたよ。人間の持つ最大の武器、人間らしさとは愛情だと。強きものが弱きものを守り、そして時には自己犠牲をも(いと)わない生物。そしてその原動力はすべて人にしかない愛という感情であると。私はこのような話を本当に恥ずかしげもなく話す先生は率直になんて青い人なんだと思いました。こんな青い大人を見たことがないと。しかしその青さは私を感動させました。そんな私はもっと青かったのかも知れません。そしてその言葉を今でも心に刻も込み自分自身の糧としている今の私は相当な子供ですね……私は恥ずかしくなってきましたよ。かつてそんなことに感動し、そして先生をそれ以来信頼し続けてきた自分を……」

 そこまで口にした私は悲しみのせいか、それとも情けなさからかは分からないが目元が熱くなり止まなかった。そんな私の言葉に先生は小さな唸り声を出した。そして一気に酒を口にした。そしてお猪口を下ろすと先生は先ほどまでの調子とは変わり、ゆっくりと静かに声を出した。

「そうか……また懐かしいことを……。そうだな、航路君が簡単に私の話を飲み込んでくれるわけはないな。やはり航路君にはすべてを話さなければ……航路君、すまない。もう少し私の話を聞いてもらいたい。そしてここからの話は絶対にここだけの話にしてほしい。他言は無用だ」

 如月先生はここまで来てまだ奥の話があるというのか。私は何をどうして良いのか混乱し、ただ大人しく「はい」とだけ答えて先生の話を待った。

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