真子 ―来ないならこちらから押しかけるのだ―
今晩も誕生日プレゼントに貰った絵本を手に持ち舜の部屋に押し掛ける。
いちいち一階に降りて台所を経由しなければならないけれど、慣れてしまった今では大した手間ではない。
台所の扉はプライバシー重視の為にオートロックになっている。舜の部屋を訪ねる時は簡単に開くのだけれど、自分の部屋に戻る時はその都度鍵を使って開けないといけないので面倒だ。もっとも戻る時間帯は真里担当なので自分で開けた事はない。なので真里からいつも『鍵だけは忘れないで』と注意されている。
逆に舜がこちらに私たちを訪ねて来る場合はインターフォン越しにロック解除できるので面倒はない。
でもごくたまにしか舜からの訪問はない。
「舜からももっと遊びに来てよ!」
「うーん『男女七歳にして席を同じゅうせず』って言って、年頃になったらやたらめったら仲良くしちゃあいけないんだよ」
「そんな難しい事知らないのだ! じゃあ、こっちから遊びに行く」
「それはいいけど、あまり夜更かししちゃ駄目だよ」
「舜が本を読んでくれたらすぐに寝てるでしょう。だから早く読んで」
「はいはい、今日はどれを読めばいい? 最近お気に入りの――」
「魔女と旅する世界旅行!」
「それじゃあ、続きからでいいかな? プーケットに降り立った二人の前にはどこまでも透き通ってキラキラと光るエメラルドグリーン海と雪より白い砂浜が広がっていた。マチャは靴を脱ぎ捨てると素足のまま砂浜に駆け出した。その後をサニーがあわてて追いかける。爽やかな南国の風が二人にまとわりつくと優しく背中を押した」
心地よい舜の声を聞いていると自然とまぶたが閉じてくる。もっと聞いていたいのに、もっと楽しい時間を過ごしたいのに、睡魔が襲って来るのだ。
寝てしまうとこの楽しい時間が終わってしまう。必死で抗う私の背中が穏やかなリズムで撫ぜられる。
うぬぬ、舜、、め、、卑怯、、、だぞ。
とどめを刺された私はその心地良さに敗北し、まどろみの中で意識を手放すのだった。