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徹 ―幼馴染なんてただの負けポジだ―

 クラスで一番可愛いと言っても過言ではない真鍋真名を口説き落とした。根気よく粘った甲斐があった。


 普段から化粧っ気がなく制服の着こなしも地味にしている為に男子の中での人気はイマイチだが、色々な女の子と付き合った俺の経験から磨けば光るし、手を加えれば化けるのは間違いなかった。

 男子からの人気がないのは他にも理由があった。ハードルが高く、面倒くさいからである。


 真名は対人恐怖症なので入学最初の学校集会でむやみやたらに近付かないようにとの校長先生からの訓示があった。

 さらに彼女の周りには常にボディガードでもある彼女の幼馴染、此平舜が張り付いている。


 怖いもの知らずのヤンチャな不良たちは他人の気持ちを一切配慮しない。初日から興味深いおもちゃを見つけたと数名が真名にちょっかいを出そうとした。


「対人恐怖症って言いながら本当は『かまってちゃん』なんだろう?」

「俺たちが相手してやるぜ! 可愛がってやるからこっち来いよ! なあいいだろう?」

「おっ? 何だよ、お前! 女の前でカッコつけちゃって、やるのか?」


 真名のボディガードは胸ぐらを掴まれながらも彼らの行為を止め、教室から連れ出すとその足で彼らのボスの所に向かった。


 何らか話合いがあったらしく、その後、不良たちが真名にちょっかいを出す事はなくなった。

 それどころか、たまに不用意に真名に近寄ろうとした生徒の肩を掴んで止めている光景を見かけるようになった。

 もっとも真名本人は他人からの視線が合うのを避けようと、目線を上げている時は幼馴染の舜を見ている為に気付いていない。


 三年に進級したタイミングで真名たちと同じクラスになった。

 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、とのことわざ同様に俺はまず彼女のボディガードの此平舜に近付いた。

 話してみると悪いやつでも怖いやつでもなかった。

 真名の母親に頼まれてなるべく身近にいて出来る範囲で世話をしている、と舜は簡単に言うが誰もが出来る事でないのは確かだ。


 俺は舜の根性のある所が特に気に入り、本来の目的である真名の事も忘れて暇ができる度に絡んでたわいない話をした。やがて親友と呼んでもいいくらいに打ち解けた。


 その内に真名の方から俺たち二人の方に近寄って来るようになった。

 無駄話中の舜に話し掛けるのを遠慮して待っている間が持てなくなったようだ。


 真名が動けばボディガードも付随して動く。例え俺と会話していようと舜は有無を言わずに中断して真名について行く。

 真名が無理矢理に俺たちの話に割り込んで来ても舜は喜んで真名との会話を優先するだろう。

 それがわかっていても少し離れてちょこんと待っている真名は優しい良い子である。


 すでに二人が恋人関係ならば割り込む余地もないし、割り込む気もなかったのだがどうやらその気配はなかった。それとなく本人たちに確認しても同様だった。


 真名と舜、第三者の目から見れば二人はお似合いだ。しかし、そもそも幼馴染というのが負けポジションなのだ。お互いに過去の事を知りすぎている。

 俺にも幼馴染がいるが、どれだけスポーツを頑張ろうと勉学に励もうと、奴の目に映る俺は小学二年までおねしょしていたハナタレ小僧に過ぎない。

 お互いに相手の黒歴史を知り尽くしているのだ。

 天地が逆転しても色恋が花咲くわけがない。


 過去の事や未来の事を真剣に考えて恋愛している奴が俺たちの世代にどれだけいるだろう?

 見栄えで選んだパートナーが将来太ってハゲて体臭が臭くなる。そんな可能性には微塵も触れない。

 愛情がなくなったから別れる?

 愛ってそんなに薄っぺらいものなのか?


 だから俺は来るものは拒まず、去る者は追わず。興味を引く子にはちょっかいを出す。

 男女の仲で将来の事を考えても仕方がない。お互いに今が楽しければいいのだ。



 ***



「今日、誕生日だったよね? お誕生日おめでとう!」

「あ、ありがとうございます!」

「これプレゼント。腕時計だけど、欲しがってたみたいだから」

「そんな、受け取れません!」

「そんなに高くない物だし、俺が女物を持ってても仕方ないでしょう? 助けると思って受け取ってよ。ねっ?」


 放課後、舜が担任に呼ばれて席を外したタイミングで真名に誕生日プレゼントを渡した。

 突然の事で驚いているようだが本気で嫌がっている素振りではなかった。


「そんな――わかりました。ありがとうございます。今度徹くんのお誕生日にお返ししますね」

「ありがとう! 期待しておくよ。あと、せっかくだから俺が付けてもいいかな? あ、駄目そうなら断っていいからね」

「――じゃあ、お願いします」


 ゆっくりと真名が左手を俺の前に突き出した。小刻みに肩が震えているのがよくわかる。

 せっかくのアピールポイントだから有効に利用したい。焦らずにゆっくりと。触れるか触れないかの距離を保ち、何とか真名の左手に時計をつけることに成功した。


「大丈夫だった?」

「大丈夫です! 全然平気です!」

「本当? 無理してない?」

「無理してません」


 優しい真名だからこそ、そう答えるのは想定通りだった。


「だったら、俺と付き合わない? お試しでもいいからさ。男嫌いを治す訓練だと思ってくれてもいい。俺が触っても平気なら続けていけば症状が改善すると思うよ。どうだろう?」

「――」

「舜の事が気になる?」

「全然、舜なんて関係ないです!」

「じゃあ、俺が嫌い?」

「そんな事ありません――」

「気を張らなくていいよ。あくまで症状改善の為のお試しだと思ってくれればいいから。嫌になったら捨ててくれればいいだけだし」

「す、捨てるなんてしません!」

「ならOK?」

「――はい、よろしくお願いします」


 夕暮れの教室で耳まで真っ赤に染まった真名はとても可愛かった。

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