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第6話 ひと安心

 聞こえてくる声はだんだんとはっきりしてくる、こちらも女性のものだ。


「あれはあなたを呼ぶ声でしょうか」


「えぇ、侍女のものですわ」


 女性は安心し、彼女は大きな声で侍女の名を呼ぶ。


 声の主もこちらに気づいたようでどんどんと声が近くなってくる。女性は安堵の声を漏らした。


「本日はありがとうございました。お二人にお礼がしたいので、ぜひわたくしの家にいらして下さい」


「お断りします、俺達は忙しいので」


 ラズリーが何かを言うより早くファルクが辞退する。縋るような目を向けられるがファルクは気にしていない。


「待って下さい、せめてお名前を」


「名乗るような事はしていませんので。それでは」


 にべもなく断り、ファルクはラズリーの手を引いてその場を去ろうとする。女性は引き止めようとするが、取り付く島もない。


 その後ろ姿を未だ縋る様に見つめながらも、運命の出会いに心が落ち着かない。


「あのような素敵な殿方がいるなんて。この国に来て良かったわ」


 侍女と別れたこの少しの間に、女性はすっかりファルクに惹かれてしまった。



 ◇◇◇



 ラズリーが迂闊な事を言う前にと足早にファルクは愛馬の元へと向かう。


 その焦る様子を見て何となく今は言葉を発してはいけないのだと察し、ラズリーも大人しくしていた。


 女性の姿が完全に見えなくなってから、ようやくラズリーは口を開く。


「どうして名を名乗らなかったの?」


 ラズリーはキョトンとしていた。


 お呼ばれはともかく、名乗るくらいはいいのではないかと思ったのだ。


 侍女と口にしていたから、彼女は明らかに平民ではないとわかる。どこぞの貴族であるだろうから、身元が怪しいとかはなさそうだたけれど。


「例え貴族でもどこの誰かわからないからな。俺達と敵対している派閥かもしれないし」


 ファルクの頭の回転の速さに感心する。


(常程頃から色々な事を想定して動いているから、リアム様からも信頼されるのよね)


 あらゆる角度から物事を考えることが出来るファルクを凄いと思う。


(あんな女に構っていたらラズリーといる時間が減ってしまうじゃないか)


 本当はラズリーと過ごす時間を減らしたくないが為に、断ったのだがラズリーは知る由もない。


 他にもファルクはラズリーに向ける女性の視線が気になっていた。


(ラズリーに対して好意的ではなかったな。全く何故そのような者ばかり集まるのか)


 自分のせいでラズリーとの婚約を解消されるわけにはいかない。


 魔獣からの攻撃からも、厄介そうな女性からもラズリーを守り切れて本当に良かった。


 二人は待っていてくれた馬のところまで戻るとすぐに乗り、ここを離れる。


「色々あって大変だったけれど、大事にならなくて良かったわ」


「本当にそうだな。ラズリーに何かあったら、セシル様やジュエル様に会わす顔がない」


「そうじゃなくて、女性が無事で良かったなって事よ」


「そっちか。まぁ確かに」


 意識は完全にそちらへと向かってはいなかった。


(そんなのよりもラズリーが無事で何より何だけれどな)


 危険な目に合わせることなく終わってホッとしている。ラズリーの両親ならば何があっても怒ることはなさそうだけれど、悲しませるような事はしたくない。


 ラズリーに似てとても優しい人達だ。


(怒るとしたらうちの父親とラズリーの兄上だな)


 すぐにその光景が頭に浮かぶ程、二人はすぐに怒る。


 ラズリーの件についての責任者はファルクだとされ、昔よく怒られた事があった。一緒に居ることが多いからこそ、またファルクも自分が側に居たいと言った手前責任は持つと、反論した事はない。


 怒られずに済むようになったのはここ最近だ。


 信頼してくれるようになったのだろうが、これからももっと信頼されるよう頑張ると誓い直し、自分の前に乗るラズリーを強く抱きしめる。


「大丈夫。落ちないからね」


 落馬を心配されたのだと思ったラズリーは、ファルクの意図も知らずに微笑んだ。


「絶対にそんな事は起きない、俺が守るから」


 感じる温もりが嬉しくて、その無邪気さが可愛くて。もっと一緒に居られたらと切に願ってしまう。



 ◇◇◇



 翌日の学園にてラズリーは教室にて、とある話を聞く。


 特待クラスに留学生が来るそうだ。


 ラズリーやアリーナ達がいる一般クラスと違い、特待クラスは上位貴族や王族が多い。


 ラズリーは体力がなく、アリーナ達は勉学が多少苦手で、クラスの振り分けの試験で一般クラスとなった。


 また皇女様もラズリーと同じクラスに居るために、一概に特待クラスに身分の高い者達がいるとは限らない。


 全ての教科で高水準を取らなければいけないから、入るのはなかなか難しいクラスである。


「セラフィム国からの留学生で薬学が優秀……ぜひ話を聞いてみたいわ」


 セラフィム国はラズリーの父親の母国、緑あふれる国で薬の知識に優れているものが多い。


 ラズリーも薬学は好きだし、魔法の適性も草魔法だ。残念ながら父の実家は既にない為、ゆっくりと滞在したことはないけれど、いつかのんびりと行きたいと思っている。


「ファルクに会いに行くついでに話しかけてみたら? どうせお昼の誘いでいつも来るんだから、たまにはラズリーが行ってもいいでしょ」


 アリーナも後押ししてくれる。


「優しそうな人なら、そのままご飯に誘ってみたりもいいかもね。まぁファルクが嫉妬するかもだけど」


 ルールーもいいんじゃない? という態度だ。


 二人も一緒に来てくれるというし、ラズリーはお昼休みに行ってみようと決意をする。


「お話を聞かせてくれるような人だといいな」


(そうだ、代わりに学園を案内とかしてあげれば仲良くなれるかも)


 浮き浮きとした気分でラズリーは昼食の時間を待ちわびていた。






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