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天高く届くは女神の抱擁 7

※夜の魔女視点



「――ルナ、ここに居たのですか」



 凛と澄んだ声に、わたくしの体がまるで縫い付けられたかのように止まる。



『お前になど憐れまれなくとも、わたくしは一人でだって生きていけるわ! お前はここから出て世界を創ると言うなら創ればいい!! けれどそこにわたくしを入れないで!!!!』



 あの道を違えた日より随分と時を重ねた。

 しかし顔を上げれば、それでも寸分もわたくしと違わない容貌をした女が、サラサラと黄金の髪を靡かせて目の前に立っていたのだ。



「リリス!!」



 わたくしの前にいたルナが弾かれたように駆け出し、リリスの側へと走り寄る。その表情は喜色満面といった感じで、先ほどまでもわたくしに見せていた表情とはまるで違い、何故かわたくしの胸はザワザワとざわついた。



「もう太陽神との謁見は終わったの?」


「ええ、全て滞りなく。貴方を神殿に入れられず、すみませんでした」


「いいんだよ、元々僕がワガママ言ったんだし。リリスの故郷を見れただけで満足だよ」


「ならいいのですが。……ところでルナ、貴方はここで何をしていたのです? 彼女は……」


「……っ」



 リリスがルナに向けていた視線をわたくしへと向ける。

 その久方ぶりに見る青く澄んだ瞳に、自然と己の肩が揺れるのを感じた。



「んーと? その子はなんとなくブラブラしてたら、ちょうどここで出会ったんだよ。名前を聞いたら女神リリスと同じ〝リリス〟って言うらしいけど、それ以上は何も教えてくれなかった。でも見てよ、ホラ! 名前だけじゃなくて、顔も女神リリスにそっくりじゃない!?」


「ルナ。女性を指差すなんて、はしたないですよ。彼女はわたしと同じ、夜から生まれた双子の妹リリス。故に似てて当然なのです」


「ええっ!? 双子!!?」



 待っていたリリスが来て嬉しいのか、ルナのテンションは先ほどよりもとても高い。まるで親にまとわりつく子のように無邪気にはしゃいでおり、リリスはそんなルナに対してひとつひとつ常識を教え込むように諭している。

 神々の間で可愛がられていた時には見たことのなかったリリスの姿に内心驚いていると、不意にルナと視線がかち合った。



「そっか、女神リリスに妹が居たなんて知らなかったよ。でも顔は同じだけど、君の目や髪の色はリリスとは違うんだね」


「…………っ!」



 その言葉に頬がサッと赤らむのを感じる。



『うわぁぁぁぁぁ!!! こいつ……、神の力を体ごと(・・・)全部(・・)吸収しやがった!!! 魔女だ!! 魔女の呪いだぁぁぁぁーー!!!!』



 あの酔っ払いの一件以来、誰もがわたくしを恐れて避けるようになっていた。

 だからこんな風に面と向って色のことを指摘されるのは久しぶりで、情けないがわたくしはとても動揺したのだと思う。



「ルナ、はしたないと言ったでしょう。詮索はやめなさい」


「え、詮索? 違うよ、リリス。僕はただ綺麗だなって思ったんだ。だってまるで澄んだ夜空みたいな色じゃないか。光を受けて黒い髪と瞳がキラキラ輝いているのもまるで星空みたい。僕は真っ暗な静寂包まれて過ごす夜、とても好きだよ」


「!!」



 咎めるような声を出すリリスに対して、あっけらかんと言うルナ。


 〝とても好き〟


 お世辞でもなんでもなく、ごく自然にそんな風にこの髪と目のことを言われるのは、神として生まれて初めてだった。



「ねぇ、それよりも用事が終わったなら、早く神の楽園(うち)へ帰ろうよ。みんなリリスの帰りを待っているよ」


「……ええ、そうですね」


「じゃあ僕達、もう行くね。君も元気でね」


「あ……」



 わたくしが口を開く前にルナがリリスを抱きかかえて、その背にある大きな純白の羽根を広げて地面から飛び立つ。

 リリスはわたくしを見て何か言いたげな表情をしていたが、この時のわたくしは神にはない美しい羽根を持つルナに釘づけだった。


 ――羨ましい。


 わたくしは〝君〟なのに、気さくに〝リリス〟と呼ばれているあの女が。


 ――羨ましい。


 こんなにも美しく、一途な存在が常に側に居てくれることが。


 どうしてわたくしのボロボロに傷ついた心を癒した存在がリリスの側に居るの?

 どうしてわたくしはこんなにも惨めで孤独なの?


 羨ましい、羨ましい、羨ましい!


 どうして、どうして、いつもいつも、あの女ばかりが――!!


 神の国を去る二人の後ろ姿が完全に見えなくなった後も、わたくしの頭の中はそれだけで占められていた。



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