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天高く届くは女神の抱擁 5



『――リリス様、〝神の楽園〟が見えてきましたよ』


「えっ!!?」



 悩んでいるとイシュタルの声が頭の中に響き、わたしは弾かれたように前方を仰ぎ見る。

 すると視界いっぱいに広がったは――。



「でっっっ、かあぁぁぁぁぁい!!!!」



 そうデカい! とにかくデカい!! ビックリするぐらいに巨大な浮島が月の光に照らされてキラキラと輝いている。

 過去に2回この地に降り立ったが、こんなにも巨大とは気づかなかった。下から見上げているから、より威圧感を感じるのかも知れない。



「こんな巨大なもの、よく地上に落下しないね」


『女神リリスのお力の賜物でしょうね。彼女がお隠れになってかなりの年月が過ぎましたが、ほぼ当時の形のまま保っているのは流石としか言いようがありません』



 イシュタルがそう言いながらぐんぐんと浮島へと突き進む。そして浮島の真上まで浮上した瞬間、わたしは真下に広がる光景に大きく目を見開いた。

 何故なら獣や鳥、大小さまざまな生き物達が草原の上で思い思いにくつろいでいたのだから。



「金色の魔力……。えっ! これってもしかして、みんな召喚獣!? どうしてこんなたくさん」


『そうですね……明確な理由は無いのですが、元々私達は天使が行使していた〝力〟が人間と別れて生まれた存在。故に本能でしょうか? 召喚士に呼ばれる時以外は、我々はこのかつて自らが暮らした地に自然と戻ってしまうのですよ』


「それって……」



 召喚獣がどこから来てどこへと帰るのか。それは長年の疑問とされてきたけれど……。

 なんてことはない。彼らは己の生まれ故郷を、主なき今なおも大切に慈しんできたということか。



『リリス様、足元にお気をつけくださいね』 

 

「うん、ありがとう」



 見覚えのある緑の草原にイシュタルがふわりと降り立ち、わたしはその背から飛び降りる。



「キュッ!」


「えっ!?」



 するとこちら目掛けて一匹のハリネズミがいきなり飛び込んで来たので、わたしは大きく目を見開く。

 とりあえず慌てて両手でキャッチすれば、覚えのある柔らかな重みと温かさを感じて抱えた手が震えた。


 だってこんなの、間違える筈がない……!



「ピグくんっ!!!!」


「キュキュー!!」



 感極まってぎゅっと胸に抱き寄せれば、ピグくんも嬉しそうに可愛らしい鳴き声を上げた。頭の中では『リリスだ、リリスだー!』と、幼い声が響いてくる。



「よかったぁ……。消えた時、もう会えないのかと思ってた……。ピグくん、ここに居たんだね」


『その者は夜の魔女に随分と手酷くやられました。故に地上で実態を保てなくなったのです。ですが安心してください。数年は掛かりますが、失った魔力が癒されればまた、地上へと降り立つことも出来ましょう』


「数年……、そうなんだ」



 早くアダムと会わせてあげたいと思っていただけにその言葉には内心ガッカリしたが、仕方がない。それだけピグくんは大きなダメージを受けたのだ。数年で戻って来てくれるだけでも喜ばなくてはならない。



「そういえばルナはどこに居るんだろう……? アダムが言うには、魔女リリスの魔力をたくさん受けたらしいけど、大丈夫なのかな……」


『ルナですか。彼は天使の中でも最も力が強く、かの太陽神にも匹敵する光彩の持ち主。容易く魔女にしてやられることは無いと思いますが……』


「イシュタルってルナにも会ったことがあるの? ここでのルナはどんな感じだったの? 性格とか」


『そうですね……。覚えているのは、当時の彼の階級は〝熾天使(してんし)〟。女神リリスを守る護衛をしておりました。性格は……どうでしょう? 今とあまり変わっていないように思いますが』


「ふーん……」



 女神リリスの護衛……。だからルナは他の天使達が消えていく中で、ただ一人最後まで女神の側にいたのだろうか?



『ねぇ。羽根の生えた人間を探してるなら、あっちに行ったよ』


「え」


『随分辛そうだったから大丈夫? って聞いたけど、ボクの声は人間には聞こえないからそのまま素通りされちゃった』


「え、え、あっち……?」



 わたしとイシュタルが話していると、ぴょんぴょんとウサギが一匹飛び跳ねて話しかけてきた。

 それにピグくんを抱えたまましゃがみ込むと、ウサギは鼻をひくひくと動かし、また『あっち』と言って右奥の方を指し示した。

 それに視線を右奥に動かせば、確かに暗くてハッキリしないが、何か建物らしき影が見える。

 すると後ろにいるイシュタルが『ああ』と、何か合点がいったように声を上げた。



『リリス様、そちらには女神リリスの神殿の跡地があります。確かにルナならば、そこに足を運んでもおかしくはないでしょう』


「神殿? そっか、じゃあまずはその神殿の跡地とやらに行ってみよっか! あの、貴方親切にありがとうね。お蔭で助かったわ」



 目の前のウサギにぺこりとお辞儀すると、ウサギは鼻をひくひくと動かしてから、ぴょんと跳ねて去っていく。



『いいんだよ。君はメグ(・・)を助けてくれたから、そのお礼』



 去り際にそう言葉を残して。



「え、メグ(・・)って……」



 頭に浮かぶのは、ルナとテーマパークに遊びに行った時に出会った迷子の女の子。お礼ってつまり、あの親切なウサギの正体は……。



「もしかして、ラビ!? 全然気づかなかったけど、思えばモフモフ感とか見覚えあるかも」



 そっか、わたしとルナがあの時した行いがこんな形で返ってくるなんて。こんな状況ではあるが、なんだか少し心が温かくなる。



「よしっ、こっから先何があっても負けない! さ、行こ、イシュタル――――」



 気合いを入れ直し、振り向き様にそうイシュタルに声を掛けた瞬間だった。



『――ルナ()? へぇ、いい名を貰ったのね。わたくしはリリス。貴方の創造神と同じ名を持つ女神よ』



 またわたしの頭の中に、夜の魔女の声が響いてきたのだ。



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