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天高く届くは女神の抱擁 3

※夜の魔女視点



「お前になど憐れまれなくとも、わたくしは一人でだって生きていけるわ! お前はここから出て世界を創ると言うなら創ればいい!! けれどそこにわたくしを入れないで!!!!」



 考えるより先に口が出て、今まで懸命に抑えていた憎悪がタガが外れたように表へと噴き出してくる。


 美しい金髪に青く澄んだ瞳を持ち、神々に愛らしい美しいと可愛がられている癖に! わたくしはそれらをどれだけ望んだって絶対に手に入らないのに!!

 それを窮屈だなんて、ましてや自分の世界を創りたいだんてなんて、本当になんて傲慢な女なのだろう!!


 わたくしだってリリスのような容姿に生まれたかった!!

 どうして顔は瓜二つなのに、色が違うというだけでリリスだけが愛されるの!?

 どうして、どうして、どうして!?

 羨ましい、妬ましい、恨めしい……。



「リ、リィ、落ち着いて……」

 


 わたくしの尋常じゃない様子にようやく気がついたのか、リリスが焦ったような声を出す。

 ――その時だった。



「あれー? なんか騒がしいと思ったら、女神リリスと魔女リリスじゃーん!」


「何々? ケンカしてるの?? めっずらしー!」



 わたくしの叫び声が聞こえたのか、騒乱に気づいた二人の神々がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてこちらへと歩いて来る。

 その手には大きな酒瓶を抱えて、どうやらかなり酔っているようだ。

 二人はリリスの肩にベタベタと触れ、楽しそうに話し出す。



「あー分かった! もしかしてリリスちゃん、ようやくこの魔女に愛想をつかしたんでしょ!?」


「え」


「あはは! そりゃそうだよなぁ。リリスちゃんだって妹じゃなけりゃ、とっくにこんな醜いヤツ見捨ててるよね」


「ちがっ……! リィ、違う! 違うからね!!」



 ケラケラと下種な顔をして嘲笑う声に、リリスの声がかき消される。



『リリスとリリス。双子なのに、なんでこんなにも違うのかしら?』


『可哀想だけど、生まれる時に姉に良いところを全部持っていかれちゃったんだよ』


『見てよ、あの真っ黒な髪に目。姉は美しい黄金の髪に青く澄んだ瞳をしているのに、あれじゃあ女神じゃなくてまるで悪しき魔女だ』


『女神リリスと魔女リリス。うん、ピッタリなネーミング』


『あ、こっち見た。やだ怖い、呪われちゃうわ』



 うるさい、うるさい、うるさい!!!!

 そんなに魔女魔女と言うのなら……。いいわ、望み通り〝魔女〟になって呪って(・・・)やる――!!

 


「!!? リィ、ダメーーっっ!!!!!」



 血相を変えたリリスがわたくし目掛けて手を伸ばす。



「――――!?」



 そして次の瞬間、気がついた時にはリリスが泣きそうな顔でこちらを見ており、その横にはぐでぐでに酔っていた筈の酔っ払いの一人が、顔を蒼白にして立ちすくんでいた。

 ……? 酔っぱらいは二人いた筈だけど、もう一人はどこに行ったのかしら?

 きょろりと視線を動かすと、酔っ払いが絶叫した。



「うわぁぁぁぁぁ!!! こいつ……、神の力を体ごと(・・・)全部(・・)吸収しやがった!!! 魔女だ!! 魔女の呪いだぁぁぁぁーー!!!!」



 耳をつんざくデカい声に、思わずわたくしは眉をしかめ酔っ払いを睨む。すると酔っ払いは「ひっ!」と情けない悲鳴を上げた後、足をガクガク震わせながら脱兎のごとく駆けて行った。

 それを冷めた目で見やった後、ふと今の酔っ払いの言葉を思い出す。



「〝吸収〟……? なるほど、この感じ……」



 どうやらわたくしは先ほどの酔っ払いの一人をそっくりそのまま力として吸収してしまったらしい。己の体を見分すれば、先ほどとは比べ物にならないくらい体に力が満ち溢れているのを感じる。

 リリスに他者の心の声を聞く力があるように、わたくしにもまた他者を養分として吸収する力が備わっているのかも知れない。髪の目も黒いのだからわたくしの持つ力などほんの僅かだろうと、今まで試そうとも思わなかったから知らなかった。



「ふふ、ふふふ」


「リィ……」



 かつてない高揚感に笑みを浮かべていると、リリスが呆然としたような声が耳に入った。

 顔を見れば、相変わらず泣きそうな顔をしている。



「見た? わたくしはお前に同情などされなくとも、十分に一人で生きていける。不快な奴らはこうやって力に変えてしまえば、もう誰もわたくしを蔑まない。嘲笑わない」


「…………」



 何も言い返せないのかすっかり黙り込んでしまったリリスを視界の端に収め、わたくしはサッと背を向ける。そしてそのまま歩き出せば、以前の香水の時ようにリリスが声を掛けてくることはなかった。


 わたくし達の道は今この時、完全に(たが)えたのだ。



 * * *



 それから程なくして、リリスは神の国を去る。

 その時の神々の落胆ぶりは面白いほどであった。


 わたくしの方はというと、あの顔を蒼白にして逃げた酔っ払いが神々にわたくしの力のことを吹聴したせいで、誰も彼もがわたくしを恐れて近寄らなくなった。

 すれ違いざまに嫌味を言われないし、つま弾きにもされない。ただひたすら居ない者のように扱う。

 文字通りわたくしは孤独になったのだ。


 リリスが新しく世界を創造したという噂を聞いたのは、そこから更に時が流れてからのことだった――。



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