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大罪を犯し獣はその手に囚われる 6



 鋭い牙。黒光りする体毛。

 見間違える筈もない。なんで、なんで……。



「なんであの時の化け物と瓜二つの魔獣が、こんな場所にいるの!!?」


「グガアアァァァァァァァァアア!!!!!!」


「……っ」



 激しく不気味な咆哮に、ゾッと以前の出来事を思い出し、足が竦む。

 ていうか前現れたヤツよりもデカくない!? 離れた場所に居る筈なのに、こうもハッキリ見えるなんて……! 別の個体ってこと!?


 怖い……けれど、もしあの化け物の近くにルナとアダムが居るのならば、わたしは行かなきゃならない。



「…………」



 そう決意し、竦む足を叱咤して化け物の元へと急ごうとした瞬間、わたしは目の前の光景に目を見開いた。

 


「グガアアァァァァァァァァアア!!!!!!」


「!!?」



 なんと化け物が突然雄叫びを上げて苦しみだし、その巨大な体は少しずつ光の粒子となって、サラサラと空へと昇っていく。



「え……?」



 まさか倒された……? 誰に……?

 目まぐるしく変わる状況に頭がついていかず、わたしは暫し呆然とその様子を見つめる。


 そういえば以前化け物をルナが倒した時も、似たような状況だったと学園長から聞いたことがあった。その時のわたしは気を失っていたから見てはなかったけれど、話によると確かルナが化け物を掲げて――……。



「ならやっぱり、ルナはこの奥に居るんだ!!」



 そう思い至った瞬間、わたしは弾かれたように化け物が倒れた場所を目指して一気に駆け出した。

 そしてどれくらい走っただろう? 木々を縫うように走り切った先に開けた場所があって、そこに出た途端に目に飛び込んできたのは……。



「――え? ……誰も……いない?」



 てっきりルナが居るものと思っていたのに、それらしい人影は見当たらない。念の為辺りを見回すが、やはりしんとしている。



「?? 確かに光の粒子はこの辺りから発生してたと思ったんだけどなぁ……」



 よく分からず首を捻る。するとそんなわたしの耳に、少し先から「キュ……キュ……」と聞き慣れた鳴き声が微かに漏れているのが聞こえた。



「!! まさか……っ!?」



 慌ててわたしはそちらへと向かう。

 するとそこに居たのは――。



「やっぱり! ピグくんっ……、――――!?」



 小さなハリネズミの後ろ姿を目に捉え、「よかった無事で」と、言いかける。

 しかし居たのはピグくんだけではなく、先ほど見た巨大な化け物もだった。化け物は人くらいのサイズになって横倒しになっており、その(おぞ)ましい姿にわたしは一瞬言葉を失う。


 だが、化け物の厳つい頭にすがりつくような様子のピグくんを見て、無我夢中で叫んだ。



「ピグくん、ダメッ!! 危ないから離れて!!!」


「キュ」



 慌てて側に駆け寄れば、ピグくんがわたしに気づき、何かを訴えるように激しく鳴きだした。



「キュー! キュー!!」


「え、なんて……」



 必死に何を伝えようとしている姿に、わたしはそっとピグくんを両手にすくい上げて、目線を合わせる。

 すると頭の中に、ある声が聞こえてきた。



『リリス、助けて。アダムを助けて。お願い……、お願い……』


「!? 今のは!?」



 悲しげな幼い高音の声。

 間違いなく今ピグくんから聞こえた。


 でも……〝アダムを助けて〟?


 そうだ、そういえばピグくんが居るのに、アダムは一体どこに――?



「グルルルルルルル……」


「ひっ!」



 すると突然、横に転がる化け物の鋭い歯の合間から恐ろし唸り声が出され、わたしは思わず飛び上がって後ずさる。

 てっきり気絶していると思って、すっかり油断していた。わたしはピグくんを制服のポケットに入れて腰から短剣を抜き、臨戦態勢をとる。


 ――しかし化け物は襲ってくる様子はなく、それどころか体が柔らかな光に包まれ、粒子のように細かく漂い空に舞っていったのだ。

 その光景にわたしは目を瞬かせた。



「どうなってるのコレ……? ねぇ、ピグくん……、っピグくん!!?」



 ポケットから出し手のひらに乗せて、ピグくんに問いかけたわたしの口が動かなくなる。

 何故ならピグくんまでもが、化け物と同じように柔らかな光に包まれていたからだ。そのまま粒子となって少しずつサラサラと風に攫われていくのを見て、わたしは悲鳴を上げた。



「ピグくん!! いやっ、なんで!!? ダメ!! 消えちゃダメ……!!!!」


「キュ……」



 懸命に引き止めようとするも、ピグくんはゆっくりと目を閉じて、それからはあっと言う間に完全に粒子となって空へと昇り、そして消えていく。



「あ…………」



 空を見上げ呆然と呟くわたしの耳に、「う……」と小さな呻き声が届いた。

 それにハッと目線を下に向ければ、さっきまで化け物がいた筈の場所にアダムが苦しそうな表情で倒れている。その姿は何があったのか、あちこち砂で汚れていた。



「……アダム!!?」



 慌ててわたしはアダムを抱き起こし、砂で汚れた頬をハンカチで拭う。



「う……、リリス……? 俺は……」


「アダム……よかった! 診療所から消えたって聞いて心配してたんだよ! っでも、あのね、ピグくんが……!」


「ああ…………」



 アダムは目を手で覆い、ポツリと呟く。

 隠された手の隙間から一筋の涙が頬を伝った。



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