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大罪を犯し獣はその手に囚われる 4



「グガアアァァァァァァァァアア!!!!!!」


「わぁっ!?」



 生徒会長に取り憑いていた人物を追う為、温室から出た途端にまた何かの咆哮がし、激しい地鳴りにコケそうになる。



「さっきから一体なんの鳴き声? まさか森の方から……?」



 温室の裏側から続いている森を仰ぎ見て、わたしはゴクリと唾を飲み込んだ。

 昼間でも鬱蒼として不気味なこの森は、日が少しずつ沈み始めた今の時間だと、より一層恐怖を誘うようないい知れない雰囲気を漂わせている。



「…………」



 よろけていた体勢を整え直し、警戒しながらもジッと森の奥を見つめるが、咆哮は一度だけだったようで森はしんと静まりかえっていた。



『使い勝手がよかったけれど、この体では(・・・・・)悪心が足りない。もう要らない。早く……早く次の依り代を探さなければ……。ああそうだ、あのソバカスの子ども。あれは実にいい依り代になりそうだった……! あれを依り代にしよう! 居場所にはわたしの愛しい天使も一緒にいる! ああ、早く行かなければ』



 あの時、あの声の人物はルナとアダムが居る場所に行こうとしていた。ルナもアダムも行方知れずの今、それがどこかは分からない。

 でも、突然森から聞こえる不気味な咆哮。勘でしかないけれど、二人はあの咆哮がした場所に居るのではないだろうか……?



「そういえば校舎の方もいやに静かだけど、魔法にかかっていたみんなはどうなったんだろう……」



 温室に入るまでは校舎のあちこちからしていた爆発音が今はしないことに思い至って、わたしは視線を校舎に向けた。

 すると――、



「ああっ! リリスちゃ~ん!!」



 聞き慣れたぽやぽやした声の主が麒麟(きりん)にまたがり、ふわふわのストロベリーブロンドを靡かせながら、こちらへと近づいてくる。

 本来ならばその元気そうな姿を見て喜びたいところだが、校舎内で襲われた一件が頭をよぎり、わたしは体を強張らせた。



「はー、よかったぁ~! リリスちゃん、無事だったんだね~! いきなりエリザベッタ様の映像が頭に流れたと思ったら、リリスちゃんを討ち取れなんて言うんだもん! 一緒にいたマグナカール先生もおかしくなっちゃうしで、本当にビックリしたよ~」



 そう言いながらアンヌは自身の召喚獣――麒麟のチーリンの背に顔をもふっと倒れ込ませ、はぁ……と安堵の息をつく。

 どうやらここまでかなり慌てて来たらしい。長い髪は汗で濡れていた。


 というかこの様子、もしかしなくても……。



「アンヌ……正気に戻ったの?」



 わたしがそう聞けば、アンヌはチラリと顔を上げて目を瞬かせる。



「う、う~ん……多分? 実はあの映像を見た後からの記憶が朧げで、正直今もリリスちゃんが危ないってことしかよく分かってなくて……。でも気づいたら校舎中ボロボロだし、他のみんなも混乱してるしで、今すごい騒ぎになってるよ。とりあえず学園長とマグナカール先生が事態の収拾に動いているけど」


「そっか……」



 アンヌだけじゃなく、学園長とマグナカール先生も正気に戻ったんだ。よかった……。

 二人なら混乱している生徒達のことも、きっと上手くフォローするだろう。兄様も合わせて、学園内のゴタゴタは全部彼らに任せておいてよさそうだ。 


 ――つまり、残るは……、



「グガアアァァァァァァァァアア!!!!!!」


「きゃああ!!!!」



 またも地を這うような(おぞ)ましい咆哮がビリビリと大地を揺るがし、それに驚いたアンヌが悲鳴を上げた。

 わたしはそんなアンヌの肩を宥めるようにさすって、落ち着いた頃合いで口を開く。



「……ねぇアンヌ、お願いがあるの。ここに居て、誰もこの先の森に入って来れないようにしておいてくれない?」


「? いいけど~……、リリスちゃんはどうするの? まさか……!?」


「うん、わたしは今聞こえた声のする場所まで行ってみる」


「ダッ、ダメだよっ!!!」



 アンヌはギョッと目を見開き、チーリンから飛び降りてわたしの腕を掴んだ。



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