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大罪を犯し獣はその手に囚われる 1

※アダム視点



 リリスと知り合ったのは、魔法学園初等部の一年の時。同じクラスになったのがキッカケだった。



「あれ~先生ぇ~、またリリスちゃんだけ召喚出来てないよ~?」


「ホントだ~、リリスちゃんだけ召喚獣がいな~い」



 召喚獣を召喚出来ない癖に家柄で魔法学園に入学した、学園始まって以来の落ちこぼれ――リリス・アリスタルフ。

 当時誰もがリリスをそう評価し、(さげす)む。かくいう俺も、そんなあいつを嘲笑(あざわら)うバカの一人だった。


 はやし立てるクラスメイト達とは違って、直接あいつに何か言うことはなかったけれど、最底辺のネズミを召喚する俺よりも〝劣ったヤツ〟。

 リリスのことをそう見下すことで、自分の自尊心を満たす。当時の俺は、そんなどうしようもないクズだったのだ。


 ――しかし、そんな俺の心を一変させる転機は前触れもなくやってきた。


 いつものように校舎裏で隠れるようにピグを遊ばせて昼メシを食ってた時、ひょっこりとリリスが現れたのだ。



「わあ!? 誰もいないと思ったら、先客がいるー!?」


「あ?」



 リリスは騒がしいテンションでこちらを指差し、ドカドカと遠慮なく俺の隣までやってくる。

 それに驚いたピグは、慌てて俺の制服の胸ポケットへと逃げ込んだ。



「なんだお前? うるせぇし、昼メシなら他で食えよ」


「え!? あー違うよ! ご飯はもう食べたんだけど、人目につかないところでやりたいことがあって……。ていうか君、話したことないけど同じクラスだよね!? わたしリリス・アリスタルフ! よろしくね!」



 今は真っ黒だが、当時はまだ薄茶色だった長い髪を風に靡かせて、リリスはにっこりと笑う。

 そんな笑顔を俺はちらりと見た後、何も答えずにそのまま視線を正面に戻して昼メシのパンに(かじ)りついた。



「えぇー!? 無視は酷いよ! 名乗ったんだからせめて名乗り返してよ、アダムくん(・・・・・)!」


「……名前、知ってんなら別に名乗らなくていいだろ。つーか人目につかずにやりたいことって、犯罪なら俺の前ですんのは止めてもらいたいんだけど」


「ちっ、違うよぉー!! わたしはただ、召喚の練習をしたかったの! 放課後は寮の部屋でやってるけど全然上手くいかないし、外ならまた気分も変わるかなって思って……」


「…………」



 さっきまでのハイテンションが嘘のように、リリスはしゅんとしょぼくれた様子でそう言う。それに俺は内心戸惑うが、そんな胸の内はおくびにも出さずにリリスに視線を向けた。



「練習って……。そもそも召喚なんて練習してするものじゃなくて、誰でも生まれつき自然に出来るもんなんだし。お前って才能も無いのに、学園に居て辛くねーの? いっつも周りにバカにされてんじゃん。もう辞めちまえば?」


「…………」


「あ」



 ただでさえしょぼくれていたリリスのテンションが、今の俺の言葉で更に落ちたのが様子を見ただけで分かる。さすがに言い過ぎたかと俺は焦った。


 田舎の農村にある俺の実家では、兄弟達と遠慮せずズケズケものを言い合っていたが、ここは王都の魔法学園なのだ。俺のような田舎者よりも貴族や資産家の令息・令嬢のクラスメイトが多い中で、俺のガサツな言動は浮くと分かっていたのに、つい地が出てしまった。

 この目の前にいるリリスも落ちこぼれとはいえ、出自はあの召喚士の名門アリスタルフ家のお嬢様。平民の俺とは身分が違うのだ。


 まさか泣いてないよな……?


 これが原因でこいつの兄貴である、上位召喚士のエルンスト様に万が一告げ口でもされたら面倒だ。

 そう考えて俺は恐る恐るリリスの顔を見やる。



「――――!」



 そして驚いた。何故なら――、



「あはは! アダムくんはハッキリものを言うんだね。もっと取っ付き難いのかと思ってたら、案外気さくで意外」



 リリスは泣いているどころか、俺を見てケラケラと笑っていたのだから。



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