女帝の傀儡、傀儡の女帝 13
「女神……〝リリス〟!? 創造神だと……!?」
高らかに自らを女神リリスと自称する生徒会長を、兄様が驚いた表情で見つめる。そして驚いたのはわたしも同じだ。もちろん兄様とは違う意味で……だけど。
だってわたしは、目の前の人物が女神リリスであることはあり得ないと知っているから。
『はい、わたしは女神リリス。そう呼ばれる存在です。そしてリリス、わたしは〝貴女の前世〟でもあるのです。貴女がここへ来たということは、時は満ちたのでしょう』
そう、本物の女神リリスはもう――……。
「ふふっ、もしかして驚きのあまり声も出ないのかしら? まぁそれも無理もないわ、神話で語られし古の〝神〟がこうして目の前に現れたのだから」
押し黙ったわたしの様子をどう捉えたのか、生徒会長が勝ち誇ったような表情をして鼻で笑う。
そんな生徒会長を兄様が鋭く睨みつけた。
「神……、本当にそうだと言うならば、教えてくれ女神リリス! 何故貴女はリリスに対し、あのような神託を下した!? 夜の魔女とは一体なんなんだ!?」
「兄様……」
わたしの為に怒りを隠さず叫ぶ姿に、胸がじんと熱くなる。
反対に兄様の言葉を冷めた瞳で聞いていた生徒会長は、そんなわたしを見て顔を歪ませた。
「…………夜の魔女、それはここより遥か天の地にかつて存在した〝神の楽園〟を襲い、そこに住まう天使達を滅した張本人。神とそれに与する者達に嫌われ、疎まれ、蔑まされる、邪悪で穢れた存在……。そしてそれこそがここに居るリリス・アリスタルフ!! お前は夜の魔女リリスの生まれ変わりなのよ!!!」
「な……!」
生徒会長の言葉に兄様は絶句する。それを見た生徒会長が満足そうに笑うが、しかしわたしが全く微動だにしないのを目にして、その表情を一変させ不審げに眉をひそめた。
そんな生徒会長をわたしは真っ直ぐに見つめて告げる。
「……違う」
「――は?」
「違う!! わたしは夜の魔女じゃない! そして貴女も女神リリスなんかじゃない!」
「!!」
わたしがハッキリと言い切ると、兄様と生徒会長が驚いたように目を見開く。特に生徒会長はわたしの言葉に、激しい苛立ちを滲ませながら眉を吊り上げた。
「それは強がりのつもり!? どれだけ否定しようが、お前が夜の魔女だという事実は変わらない……!!」
『何故動じない!? 焦らない!? 邪悪な夜の魔女の生まれ変わりだと言っているのに!! 早く絶望しろ! 嘆け! 惨めたらしく己の運命を怨め!!』
口から出る言葉とは裏腹に、生徒会長の心の中からはとても焦ったような声が聞こえる。
「いいえ。わたしは絶望なんてしないし、嘆いたりもしない。ましてや自分の運命を怨んだりも――もうしない!」
「は……」
わたしの言葉に生徒会長は一瞬虚を突かれたように押し黙った後、顔色が一気に紙のように白くなった。
「何故、わたくしの心を……? !! まさか、女神の力を取り戻したというの!!? 嘘、どうやって!? いやっ……!! いやああああああああっ!!!!」
突然生徒会長は激しく取り乱し、耳をつんざくような悲鳴を上げて、一気にわたしから後ずさったのだ。