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女帝の傀儡、傀儡の女帝 12



『くらい……、こわい……』



 この幼い声の主が、レオナルド?


 あの勇ましい巨大な体躯からは想像もつかないような舌っ足らずな声に驚くが、生徒会長がレオナルドの魔力をそのまま有しているのは確かに感じる。

 どうして実態が消え、魔力のみとなっているのかは分からないが……。



『エリザベッタさま、もとにもどって』



 それに声を感知したことによって、今はハッキリと魔力の塊となったレオナルドの姿が見えた。

 もちろんその〝紅い瞳〟も――。



「――でも、そうね」


「!」



 クスクスと(あざけ)るような笑い声に、わたしはハッと視線を生徒会長へと戻した。



「わたくしもこの瞬間を永い永い時をかけ、ずっと待ちわびてウズウズしていたんだもの」



 すると声と共にザワザワと生徒会長の体が揺らめき始め、禍々しい魔力が周囲を覆いつくす。

 これは……! またあの真っ暗な空間にわたし達を飛ばす気だ!!



「……っ! させないっ!!!」



 わたしは腰に差していた護身用の短剣を引き抜き、そのまま〝紅い瞳〟目掛けて思いっきり投げた。



「グオォォォォォォオオ!!!」


「きゃあああ!! レオナルド!!!」


「!? あの有翼の獅子は……、ノーブレ嬢の召喚獣か!!」



 投げた短剣は鋭く〝紅い瞳〟を掠め、巨大な獅子が痛みに悶え咆哮を上げる。

 その瞬間レオナルドが実態となって生徒会長と分離し、それを見た生徒会長が慌ててレオナルドへと手を伸ばすが、――もう遅い。



「頼む!! イシュタル!!」


「キュオオオオオ!!!」



 兄様の背後に控えていた召喚獣――神龍イシュタルが、あっという間に生徒会長とレオナルドを魔法で作った光の檻に閉じ込めてしまう。



「ああっ……!」



 衝撃に檻の中でへたり込んだ生徒会長の顔が悔しげに歪み、そしてわたしを憎々しげに睨みつける。

 兄様はそんな生徒会長からわたしの姿を隠すように檻の前に進み出て、その姿を見下ろした。



「これまでだ、ノーブレ嬢。何故こうまでして執拗にリリスの命を狙う? 以前に一度会ったきりだが、その頃の貴女と今の貴女はまるで別人のようだ。一体何があった? 洗いざらい話して貰おうか」



 兄様が眼力強く生徒会長に問いかける。

 すると生徒会長はそんな兄様をじっと見て、やがて何が面白いのかクスクスと笑い出した。



「……何を笑っている?」


「うふふ、いえ人間の体では上手く(・・・)魔力を(・・・)奪えない(・・・・)のだと分かったら、なんだかおかしくなってしまって。……ああ、本当に使えない。使えないクズめっっ!!!」


「ギャン!!」


「やめろ!!」



 突然生徒会長が苛立だしげに立ち上がってレオナルドを蹴り上げ、それを見た兄様が鋭く制止する。



「己の召喚獣を自ら傷つけるなど、本当に貴女は一体どうしたというんだ!」


「…………」



 その怒鳴り声に生徒会長は急速に表情を失くし、そして兄様と、その背後に隠れるわたしをひたと見つめた。



「……エルンスト様、わたくしは〝神の愛し子〟。幼き頃より神と対話し、そして神は聖なる使命をわたくしにお与えになられました」


「? 急に何を……、神と対話? 聖なる使命……?」


「ええ……」



 生徒会長が目を伏せて頷き、兄様がその姿を訝しげに見た――次の瞬間、



「伏せて、兄様っ!!!」


「っ!?」


「悪しき夜の魔女を滅し、世界を神が創造したあるべき姿に戻す。それこそがわたくしの使命……!!」



 再び生徒会長から禍々しい魔力が溢れ出し周囲を覆いつくした。

 更には分離した筈のレオナルドもまた、あっという間に実態が崩れて生徒会長へと取り込まれていく。



「グオォォォォ!!!」


「レオナルドっ!!」



 手を伸ばすが間に合わない! 

 そして大きな破裂音と共に光の檻が一瞬にして砕け散り、生徒会長がコツコツとヒールの音を立てながらこちらへと歩み出る。



「くっ……!」


「――さぁ、これ以上の茶番は終わりにしましょう。わたくしの中のレオナルドを見抜いたのは驚いたけれど、もう同じ手は通じなくってよ。神に与えられし使命の下に、リリス・アリスタルフを討ち果たさせてもらうわ」


「……っ、さっきから神、神と言っているが、ノーブレ嬢! 君自身は(・・・・)一体何者なんだ!? 君はエリザベッタ・ノーブレではないのだろう?」


「!!」



 その言葉にわたしも生徒会長をじっと見つめる。

 そうだ、兄様が言うには生徒会長は元は地味で大人しい少女で……。そしてそれはレオナルドの先ほどの『もとにもどって』という悲痛な声からも想像できた。

 じゃあ今目の前に居る、この〝エリザベッタ・ノーブレ〟の正体は――……?



『夜の魔女がこの世界の生命の根源たる魔力を奪い尽くした(・・・・・・)結果……かな』


『言葉通りだよ。この地に大勢いた天使達は、夜の魔女の奇襲を受けて魔力を奪い尽くされ(・・・・・・)、地に堕とされたんだ。僕以外、全て残らずね』



 先ほど生徒会長は、「人間の体では上手く(・・・)魔力を(・・・)奪えない(・・・・)」と言っていた。


 ――〝魔力を奪う〟。


 そんなことが出来る人物、まさか……。



「……っふ、うふふふふふ! このわたくしが〝一体何者か〟ですって……?」



 すると唐突に生徒会長は笑い出し、やがてそれが収まるとわたし達をジロリと()め付け、目を細めた。



「――いいわ、あの世に行く前に教えてあげる。わたくしこそがこの世の全てを生み出した創造神……〝女神リリス〟よ」



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