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女帝の傀儡、傀儡の女帝 7



「あれぇリリス、またここに来ちゃったの?」


「――――え……」



 ……わたし、兄様と一緒に生徒会長が幻覚魔法で作った空間にいた筈なのに。



「兄様……いない……」



 見渡せば覚えのある一面の緑の草原に雲ひとつない澄み切った青い空。すぐ側には小さな川も流れ、更には色とりどりの花が咲き乱れており、その上を可憐な蝶が舞い踊っている。

 そして目の前に立っているのはまるで神官のような白い衣をまとった――……。



「ルナと名乗った少年……」


「はは、何その呼び方? 名乗ったっていうか、ルナ本人なんだけど……。ま、いいか。それより君はどうしてまたここに居るんだい? 今回は〝女神リリス〟に憑依していないみたいだし、迷子にでもなっちゃった?」


「憑依……?」



 言ってることはよく分からないが、軽口を言ってニコニコ笑う姿はルナにそっくりで。頭では別人だと分かっていても、さっきまで緊張と恐怖で強張っていた体から一気に力が抜けていくのを感じた。



「わっ!? 泣かないでよ、リリス! 一体何があったの!?」


「え……?」



 言われて目元に触れれば、手が涙で濡れている。どうやら体から力が抜けたのと同時に、涙腺まで緩んでしまったようだ。

 目の前の〝ルナ〟に指摘されるまで、自分の頬を流れる雫に全く気がつかなかった。



「ほら、落ち着いて。何があったのか話してみてよ」


「…………」



 言いながらわたしの背中を落ち着かせるように撫でる手は優しくて、まるでルナにそうされているかのような不思議な感覚に陥りわたしの心がスッと()いでいくのを感じた。

 でも……、



「……貴方は確かにルナなのかも知れないけど、でもわたしとは違う世界の人なんでしょう? だったらそんな人を巻き込むようなこと、出来ない。何も言えないよ……」


「もー、泣くほど追い詰められてる癖に何言ってるんだよ! 一人じゃ無理でも三人(・・)で考えれば、打開出来る方法も見つかるかも知れないよ? よく三人寄れば文殊の知恵って言うじゃない?」


「それはそうだけど……て、三人(・・)??」



 一面に広がる緑の草原。小動物が駆けていくのは視界にちらちらと映るが、人らしき姿はどう考えても今この場にはわたしとルナしかいない。

 もしかしてわたしには見えない何かが居るとかいう、オカルト的な展開なのだろうか??


 思わず身構えて辺りをキョロキョロと見回していると、不意に前方からクスクスと笑う聞き慣れた女性の声がした。

 それにハッと目を前に向けると、いつの間にかルナの隣に立っていたのは――……。



「オカルトではありませんよ、リリス。――もっとも、突然現れたという意味では貴女にとっては十分オカルトかも知れませんが」



 そう言って文字通り突然現れた一人の女性が、わたしを見て優しく微笑む。

 女性はルナと同じデザインの神官風の白いワンピースを着ており、髪は長い金色で瞳の色は青くて――。

 ううん、それ以上に気になるのは……。



「どうしてわたしと同じ顔、声も……」



 ――そう、髪と目の色は違うが、それ以外はまったくのわたしと瓜二つ。

 よく自分にそっくりな人間は世界に三人いると言うが、それにしても似すぎではないだろうか?

 驚きに目を見開き、わたしはまじまじと目の前の女性を凝視する。するとそんなわたしを女性はキョトンと見つめて首を傾げた後、何故かおかしそうに破顔した。



「ふふふ! 世界に三人……! 確かにそう思うのも無理はありません。ですがリリス、わたし達が似ているのは決して他人の空似ではないのです。何故なら貴女は……」


「!?!? 待って! なんかさっきからわたしの心読んでない!!? やっぱオカルトじゃん!!!!」


「え?」



 怖くなって叫べば、目の前の女性が訳が分からないといった感じで不思議そうにしている。

 するとその様子を見かねたのか、隣に立つルナが困ったように苦笑して、女性に言った。



「――女神リリス、初めて出会った者は貴女に心を読まれることに慣れておりません。リリスが驚くのも無理はないかと」


「ああ……、そうなのですね。ではルナ、貴方も最初はそうだった?」


「ええまぁ、少し。もう慣れましたが」


「そうですか」


「…………?」



 ルナがわたしに敬語を使っている……!


 いや正しくは目の前のルナはルナじゃないし、わたしもこの女性ではないんだけど! 

 でも姿かたちがまるで同じ人物がこうも堅苦しくやり取りをしているのは、なんだか新鮮と言うか不思議だ。

 というか体育祭の時に出会ったルナと目の前の人物は、本当に同一人物なのだろうか? 以前わたしを女神リリスと勘違いしていた時はもっと気安かったような気がする。



「……ん??」



 ――って、〝女神リリス〟!? この人が!!?


 わたしの言葉にならない心の叫びを、やはりしっかりと読んだのか、目の前の女性――女神リリスがにっこりと微笑んで頷いた。



「はい、わたしは女神リリス。そう呼ばれる存在です。そしてリリス、わたしは〝貴女の前世〟でもあるのです。貴女がここへ来たということは、時は満ちたのでしょう」


「前世……? わたしが、女神の生まれ変わり??」


「ええ」


「…………」



 突然降って湧いた事実に混乱と、しかし妙にしっくりくる感覚に戸惑いながら、わたしは女神リリスを見つめる。

 すると彼女は苦悩するように目を閉じ、そしてゆっくりとその青い瞳を開いて言葉を続けた。



「わたしの生まれ変わりたる貴女には、伝えねばならないことがあります。――聞いてくださいますか? わたしが創造した世界で起こった、〝夜の魔女〟との永き戦いの話を」



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