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女帝の傀儡、傀儡の女帝 4



「うう……、知らなかったけど兄様って結構破天荒なんだね。本気で死んだと思った……」


「すまない。あの場でミィシェーレ嬢とチーリンを傷つけずに離脱するには、あの方法しかとっさに浮かばなかったんだ」



 空を悠然と駆けるイシュタルの背に落ち着き、ようやく先ほどの脱出劇の余韻が抜けてきたわたしは、ちょっとむくれて兄様を詰める。

 するとそれに対して眉を下げている兄様は本当にすまなそうだ。

 もうこんな心臓に悪いことは金輪際勘弁願いたいが、でもこういう無茶をするところ、なんだかわたしに似てるのかも知れない。ほとんど交流もなかったけれどやっぱり兄妹なのだと、そんな風に非常事態の真っ只中ではあるが実感してしまう。



「あっ、兄様あれ! 生徒会長の温室!」


「ああ、確かにあるな。まさか高等部の校舎裏にこんな巨大な温室があったとは……」



 兄様が驚きながら温室を見下ろしているので、わたしは首を傾げる。



「兄様は温室のこと知らなかったの?」


「いや、温室自体は元々あの場所にあった。しかしここまで巨大ではなく、ごく普通のものだったんだ。時期を考えると、ちょうどノーブレ嬢が生徒会長になった頃に改築されたのか……」


「……生徒会長、温室のことを〝神の楽園〟って呼んでかなり思い入れがある様子だった。それに今にして思えば、最初から生徒会長はわたしのことをあまり良く思っていなかったように思う。わたしの神託をなぞる様なさっきの言葉といい、何かわたし達の知らないことを生徒会長は知っているのかも」


「我々がまだ知りえない情報をノーブレ嬢がか……。だがやはり妙だな……」


「妙って?」



 前方にいる兄様の顔を覗き込めば、腑に落ちないといった微妙な表情をして兄様が首を振った。



「いや……。実は私は以前、理事長からの紹介でノーブレ嬢と少し話をする機会があってな。その頃のノーブレ嬢は先ほどの映像の人物とは似ても似つかない……温和でどちらかと言うと地味な少女だった筈なんだ。それが何故あんな……」


「温和で地味……?」



 そういえば前にアンヌが、兄様と生徒会長がお見合いをしたというようなことを言っていたのを思い出す。もしかして今兄様が言っているのは、その時のことだろうか?

 しかし温和で地味……。今の苛烈で派手な生徒会長の様子からは全く想像がつかない。



「理事長からの紹介でって、それって兄様が生徒会長とお見合いした時の話?」


「みあっ!? ……ちがっ、一体どこでそんな話になった!!?」



 面白いくらいにうろたえている兄様を無視して、わたしは質問を続ける。



「いいから! お見合いは何年前の話なの?」


「だから見合いではないのだが……。だがそうだな、ノーブレ嬢と出会ったのは今から2年前。彼女が中等部3年の時だ」


「2年前……」



 ということは人が変わったキッカケは、やはり生徒会長になった前後にあるのだろうか?



『そうね。神の楽園とは、神が最初に創造した世界のこと。――わたくしは幼い頃より神の声を聞くことが出来るの』



 生徒会長は今は滅びたという神の楽園を地上に(よみがえ)らせることが使命だと、神に告げられたと語っていた。

 そして神の楽園は真白い生物しかいない尊くとても美しい楽園で、〝ルナが居れば神の楽園は完成する〟――とも。



 神に見捨てられし穢れた娘。

 夜の魔女、リリス。

 夜を纏いしその時は、神の御使いが魔女を討ち取らん。



 もしかしてわたしの神託の神の御使いとは、生徒会長である可能性はないのだろうか――……?



「キュオオオオオ」


「……さぁ、着いたぞ」



 上空を飛んでいたイシュタルが緩やかに降下の前で止まる。

 兄様が先に地面に降り立ち、次にわたしが兄様が差し出す手を取って降りた。



「…………」



 大きなガラスの扉を見上げ、わたしはまたルナの名を心の中で呼ぶ。

 しかし当然……反応はない。

 すると落ち込んでいたのが顔に出ていたのだろうか? 兄様がポンとわたしの頭を撫でる。



「……色々と謎は多いが、とにかく今はノーブレ嬢に集中しよう。彼女に会わないことには何も分からない。扉を開けるぞ」


「兄様……。うん、そうだね!」



 兄様の言う通り、ここで考えていても仕方がない。

 生徒会長に会ってその真意を確かめるべく、わたしは意を決して扉に手を伸ばした――。



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