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女帝の傀儡、傀儡の女帝 2

※後半三人称



「あれは……学園長の召喚獣、鳳凰(ほうおう)フェニーチェだ!!」


「ケェェェェェン!!!」


「わぁっ!!? え、鳳凰フェニーチェ!?」



 鳳凰のけたたましい鳴き声と共にドッと激しい衝撃波が巻き起こり、学園長室の壁が抉られる。

 あまりの惨状に耐えられず、わたしは兄様の腕から抜け出して、学園長に向かって叫ぶ。



「学園長!! 一体どうしたんですか!? わたし達が分からないのっ!?」


「…………」



 学園長はわたしの問いかけに何も答えない。ただ瞳孔の開いた血走った目で、こちらに向かってひたすら攻撃を繰り返している。その様子はまるで何かに憑依され体を乗っ取らたかのようで、背筋がゾッと震えた。



「……リリス」



 すると背後にいた兄様がわたしの肩をぐっと掴んで、低く囁いた。



「今の学園長に何を言っても無駄だ。恐らくノーブレ嬢に完全に魔法で精神を掌握されている」


「魔法で……、精神を掌握!?」



 なんとも物騒な言葉にギョッとするが、先ほどの生徒会長とレオナルドの様子を思い出して合点がいく。



「さっきの映像……。最後にレオナルドがわたし達を見た。もしかしてあの瞬間、魔法をかけられたの!?」


「ああ、ノーブレ嬢の召喚獣は精神に干渉する魔法に長けている。恐らくレオナルドの紅い瞳を見たことがトリガーとなったのだろう」


「紅い瞳……。そういえばわたしも体育祭の時、レオナルドの瞳を見てしまって、まんまと幻覚に掛かったことがあったわ」


「……とはいえ私が知る限り、彼女にこんな遠隔からの精神掌握魔法を使役するほどの能力は無かった筈なのだ、がっ!!」


「ケェェェェェン!!!」



 わたしの話の腰を折るように、鳳凰フェニーチェのつんざくような鳴き声を出す。

 そしてそれと共に炎の渦が発生し、間一髪わたしと兄様が避けたことで、ドカーン! とまた壁が崩れる音が響いた。



「くっ……! このままここに居ても埒があかないな……。リリス、学園長を正気に戻す為にもここを一旦離脱して、ノーブレ嬢を探し出すぞ!!」


「うん、分かった……!! 外に出れば、他の先生達にも助けを求められるもんね!」



 アダムのこと、ルナのこと、神託のこと。

 ……そして、生徒会長のこと。

 気になることは山積みだが、とにかく今はこの状況をなんとかしなければ進まない。

 わたしは兄様に手を引かれ、隙を見計らって破壊音が響く学園長室を急いで抜け出す。


 ――しかしこの時わたしは、とんだ思い違いをしていた。

 あの時あの映像を見たのは、わたし達三人だけではない。


 そう、精神を掌握されたのは学園長だけではなかったのだ――……。



 * * *



 ガラス張りの天井からサンサンと降り注ぐ光を浴びて、瑞々しく咲き誇る花々が甘い香りを放つその中心。

 玉座のように煌びやかな朱色のソファーに気怠げに座った妖艶な美女はヒールを履いた長い脚を組み替え、足元に目を閉じて寝そべる巨大な有翼の獅子を優しく撫でる。



「うふふ。アリスタルフさん、早く来ないかしら? 折角淹れた紅茶が冷めてしまうわ」



 クスクスと軽やかに笑う声に混じって、薄っすらとあちらこちらから爆発音が響く。

 それを耳で聞き取ると、妖艶な美女だ――エリザベッタはニィと唇の端を吊り上げた。



あちら(・・・)も準備は万端のようだし、いよいよ最後のお茶会の始まりね」


「グルル……」



 その声に反応するように巨大な有翼の獅子――レオナルドが喉を鳴らす。

 するとそれを見たエリザベッタが、ふっと微笑み返して呟いた。



「うふふ。ついに今日、わたくしは(けが)れた夜の魔女を滅して、永きに渡って焦がれた()を手に入れるの。――ああ、楽しみね、レオナルド」



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