闇より蠢く者達 7
神に見捨てられし穢れた娘。
夜の魔女、リリス。
夜を纏いしその時は、神の御使いが魔女を討ち取らん。
兄様に告げられたわたしへと降された神託の意味を、わたしはじっと考える。
「……〝神に見捨てられた〟……ですか」
神様に嫌われているとは常々口癖のように思っていたが、まさかそっくりそのまま神託で告げられていたとは思わなかった。
以前生徒会長は、『神の色である白に近い色素を持つ者ほど、神に愛されている』と言っていたが、信憑性が増してくる。
それに――……。
「〝夜の魔女リリス〟これは一体どういう意味なんでしょう? 〝闇を纏いし〟は、多分わたしの髪と瞳の色のことですよね。だとすると単純にわたしの黒髪黒瞳を指して、夜の魔女と言っているんでしょうか?」
「恐らくはそうなんだろうな。しかし夜の魔女、何故リリスをそう称したのか、実は私もよく分かっていないんだ。学園長は魔法王国ラーの創世神話に詳しいですが、何かご存知じゃありませんか?」
「いや、すまない。私も思い当たるところが無いんだ。なにせ創世神話には神にまつわる記述は多いが、〝魔女〟という単語はどこにも存在しないんだよ」
「そうですか……。神が出て来る以上、魔女も神話と関わりがあるのかと思いましたが、違いましたか……」
「…………」
兄様も学園長も知らない〝夜の魔女〟。
『実はわたしの友達の先輩が生徒会に入ってるんだけどね〜。体育祭の後、温室から聞こえてきたんだって。『穢れた夜の魔女リリス・アリスタルフ……! 絶対に許さない……!!』って言ってたの』
なら生徒会長は、どこでそれを知った?
『――ねぇ、ここを出るなんて言わないで。確かに〝天使〟は〝夜の魔女〟に滅ぼされ、もう僕しか残っていない。君の天使達を救いたい気持ちは分かる。でも僕は、ただ君とずっと居られたらそれでいいんだ』
神託の〝夜の魔女、リリス〟。
生徒会長の言う〝汚れた夜の魔女リリス・アリスタルフ〟。
あの〝ルナ〟と名乗った少年が言った〝夜の魔女〟。
これらは全て同一人物なのだろうか?
そして、それは本当にわたしを指している……?
「リリス、すまない。夜の魔女の意味については、もう少し探ってみよう」
「あ、いえ! こちらこそ話の腰を折ってすみません。それでわたしに降された神の神託と、閉架図書室の一件がどう繋がるんですか?」
すっかり難しい顔で考え込んでしまったようで、兄様が表情を曇らせてわたしの顔を覗き込んでくる。
それにわたしは慌てて顔を上げて、表情をやわらげた。
「ああ……」
するとわたしの問いに、兄様は珍しく動揺したように視線を彷徨わせる。そしてテーブルに置かれた紅茶を一口飲んだ後、ややあって口を開いた。
「リリス」
「はい」
「私は神託に出て来た〝神の御使い〟こそが、お前とウィルソンくんを閉架図書室へと誘導した〝白い羽根の持ち主〟であると考えている」
「…………」
「そして、その人物の名は――……」
そこで兄様が止まり、その先を言い淀む。
しかし今誰の名を言おうとしているのか、もうわたしにはとうに察しがついていた。
〝神の御使い〟が〝魔女〟を討ち取らん。
それが指し示す意味は――――、
「兄様は〝ルナがわたしを殺す〟と思っているんですか?」