闇より蠢く者達 4
※エルンスト視点
「しかし待ちたまえ。これはあまりにも証拠が揃い過ぎてはいやしないかい? まるでルナくんを犯人に仕立て上げたような……。何者かの陽動とも考えられないのかね?」
「確かにそれも考えましたが……」
学園長のもっともな問いかけに私は頷き、注がれた紅茶に映る自身の姿を見つめながら口を開く。
「――学園長。以前も言いましたが、私はずっと卒業テストのあのタイミングでルナがリリスによって召喚されたことは仕組まれたものではないかと考えています。15年間何をしても召喚獣を召喚出来なかったリリスがあの土壇場で成功するのは不自然だ。ルナがリリスをずっと監視していたとしか思えない」
「……つまりルナくんがタイミングを見計らい、アリスタルフ嬢の前に現れた。と?」
「はい。思い返せばあの時、閉架図書室の扉の前にはリリスとウィルソンくんが立っていた。そして二人の様子はどことなくおかしかったんです」
「…………」
しばしの沈黙の後、学園長は紅茶を一口飲み、呟く。
「そうか……、アリスタルフ嬢は禁書の件にも関わりがあったのだね。ならば陽動だったとしても、ルナくんの何らかの関与は否定出来ない……か」
学園長は苦悶するように唸り、それから溜息をついた。
「何故あの時、あのタイミングであの化け物が現れたのか。何故ルナくんはそれを苦もなく倒すことが出来たのか。甚だ疑問ではあったが……」
「リリスに近づく為の自作自演ならば、全て説明がつきます」
私はそう言い切ると、下を向いていた学園長の視線が私へと向かう。
「自作自演……。彼があの化け物の出現に関わっているのなら、あれがどのような存在か、また強さも事前に分かっていた。そう考えるのが自然か……」
「ええ、恐らくはそういうことなのでしょう」
その言葉に同意して頷く。
しかし当の学園長は戸惑ったように眉を寄せた。
「……だが、私にはどうしてもルナくんがアリスタルフ嬢に対して邪な企みをもって近づいたとは思えないんだ。念の為マグナカール先生を1年S組の担任に据え監視させてはいるが、報告では二人はとても仲睦まじく過ごしていると聞いているよ」
「ああ……。そういえばマグナカール先生が、中等部から引き続きリリスの担任なんでしたね」
この魔法学園の理事長と学園長の折り合いは、実はあまり良くない。創設者一族ということで理事長は学園を私物化している節があり、それは現高等部生徒会長である娘も同じ。
しかし彼らの学園内の権力は絶大で、多くの教員は機嫌を損ねることを恐れて理事長には逆らえない。
そんな中でマグナカール先生は、唯一学園長支持を明確に示した存在だった。
学園長が最も信頼を置いている人物とも言えよう。
その彼女がルナを危険視していない。
それもひとつの答えなのかも知れない。
「……結局、ルナ自身の正体は未だ何も掴めていません」
――――ただ、
そこまで考えて、私は両の拳を強く握り締めた。
「私もリリスの気持ちを考えればこんなことは考えたくない。しかし、私にはどうしても無関係とは思えないんです。あの化け物の出現もルナの現れたタイミングも。そして閉架図書室に残されたルナの痕跡も。それらが全てリリスに繋がるのなら、私は何があっても妹を――……」
「エルンスト君……」
「お願いします学園長」
私の言葉に学園長はギュッと眉を寄せる。
そんな学園長に頭を下げ、ここを訪ねた一番の目的を私は告げた。
「リリスとウィルソンくんにあの時何があったのか、私に事情を聞く許可を」