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闇より蠢く者達 3

※エルンスト視点



「やぁエルンスト君、待っていたよ」



 ちょうど午後の授業の予鈴が鳴った頃。

 学園長室の扉をノックして入室すると、学園長がにこやかに私を出迎える。

 しかし常とは違う、その少し頬のこけた様子を見て、私は眉を潜めた。



「随分お疲れのようですが、どうされたんです?」


「ああ、分かるかい? ははは……」



 応接セットに腰掛けティーカップに紅茶を注いでいた学園長は、少しバツが悪そうに苦笑する。



「実は数日前まで理事長に緊急で呼び出されていてね。ずっとそちらに掛かり切りだったんだ。おかげでせっかくの体育祭を見逃してしまったよ」


「理事長? なんでまた……」


「それが緊急と言うわりにはいつでもよさそうな案件でね……。まぁそれよりも、君の方こそ緊急の報告があって来たんだろう? さぁ、座って話そう」



 促され応接セットに腰掛ければ、淹れたての紅茶が私の目の前に差し出される。それを有難く受け取り一口飲んだ後、私はここに来た本題を切り出した。



「報告したいのは、以前閉架図書室で強大な気配を感知した件です。あれから今一度調べ直した結果、閉架図書室の封印魔法が解除されていたことが分かりました」


「!」



 カチンと学園長が飲んでいたティーカップをソーサーに置く音が響き、互いにしばし沈黙が続く。

 ややあって先に口を開いたのは、学園長だった。



「あの扉の封印魔法は何重にも強固に施されていた筈だが……。それこそ解除出来る人物は、王国全土でも君を含めて数人しか存在しない」


「ええ。しかもただ解除しただけじゃなく、もう一度同じ封印魔法を掛け直されています。一見すると痕跡がなく、現に私も確証を得るまでにこれほどの時間を要しました」


「……確証(・・)というのは?」


「これです」



 スッと静かに私が机の上に置いたものを見て、学園長が目を見開いた。



「これは……、閉架図書室の禁書かい!? それと、白い羽根……? 禁書はともかく、この羽根が何かの証拠なのかい?」


「ええ」



 私は頷いて学園長に答える。



「魔力というのはどれだけ正確に模倣しても、自分自身の魔力の色を完全に消し去ることは難しい。扉に微かに残っていた魔力と、その羽根がまとっている魔力が一致しました」


「!!」



 驚いた様子の学園長が「では……」と、重く口を開く。



「その羽根の(・・・)持ち主(・・・)が封印魔法を解除したと?」


「はい。この羽根はあの時、閉架図書室の前に落ちていたのを拾ったものです。羽根を落としたのが意図的か偶然かはともかく、封印魔法を解除した犯人と見てまず間違いないでしょう」


「…………」



 考え込んだ様子の学園長から視線を落として、私は禁書にグルグルに巻き付けられた黒いリボンをほどき、ページをパラパラと捲る。

 そしてとある挿絵が描かれたページで手を止めた。



「学園長、これを見てください」


「!? これは……!?」



 私が指し示したものを視界に入れ、学園長は驚愕に目を見開く。そしてガバリと噛り付くようにして禁書を凝視した。


 その様子も無理もない。

 何故なら忘れもしない、あの中等部の卒業テストの時に現れた、巨大な体躯に二つの犬の頭をもつ化け物が禁書には描かれていたのだから――。



「バカな……! ではあの化け物こそが、禁術によって呼び出された召喚獣だと言うのかい……!?」


「恐らくは。そして扉の封印魔法を解除した人物の目的は、あの化け物を復活させ、リリスを襲わせることにあった」


「…………」



 学園長は苦悶の表情で白い羽根をじっと見つめ、沈黙する。

 微かに白金色に発する魔力には嫌というほど覚えがあった。そしてそれは学園長も同じ。

 恐らく今、私を同じ人物を頭に浮かべているのだろう。


 初めから分かっていたことだ。ただそれが確実のものとなっただけ。

 だが、それはあまりにも――……。



『今まで召喚獣を召喚出来なかったから疑う気持ちはわかりますが、ルナは正真正銘わたしが召喚したわたしの召喚獣です! 兄様にそれを認めるとか認めないとか言われる筋合いはありません!』



 あの時のリリスの泣きそうな顔が、また脳裏に浮かんだ。



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