闇より蠢く者達 1
ファンタジーアニマルランドで遊んでから一週間が過ぎた。
月も替わり、周囲は期末テストの勉強に取り掛かっている今日この頃。
わたしは昼休みに診療所から1年S組へとルナと一緒に戻り、出迎えてくれたアンヌを前にして大きな溜息をついた。
「リリスちゃん、ルナくん、おかえり~! アダムくんの様子はどうだった?」
「うーん。今日も面会は拒絶だって言われてダメだった……。アダムの具合、そんなに悪いのかなぁ……」
「そっか~、もう一週間以上経つのに心配だね……」
「うん……」
アンヌの言う通り、体育祭が終わってからもう一週間以上が経つ。なのにあの時医務室に運ばれたアダムは、診療所に移された現在も誰にも会いたくないと医師の先生に言っているらしく、未だ会えないままだった。
誰とも会いたくないって、なんで……?
まさかわたしだから会いたくないとかじゃないよね……?
会えないならばせめて今どんな様子なのか、本当にケガは無かったのか。せめて何か情報が欲しいのだが、それすらプライバシーに関わるからと言われて教えてくれない。
卒業テストの時に受けた背中のケガの傷口が、開いたとかじゃなければいいのだが……。
「はぁ……」
「リリス、溜息ばかりつくのは良くないよ」
「うう、だって……」
ただ心配することしか出来ない現状が歯がゆい。
アダムにはMVPを取ったこととか、テーマパークでの出来事とか、報告したいことがいっぱいあるのに。
わたしはルナに注意されたばかりだが、アダムにと思って買ったお土産の包みを握りしめて、またも大きな溜息をついた。
「テーマパークのお土産、なかなか渡せないなー……」
「あ、そうだ! お土産といえばリリスちゃん、わたしの分まで買ってきてくれて本当にありがとう~! 早速使わせてもらってるよ」
「え」
ハッとアンヌを見ると、筆箱からわたしがプレゼントしたキリンのモチーフがあしらわれたペンをニコニコと見せてきた。
友達にお土産を渡したのはこれが初めてだったが、喜んでくれたようでわたしはホッと安堵する。
「ううん、こちらこそ喜んでくれて嬉しいよ。まだMVPの景品で貰ったチケット残ってるし、今度はアンヌとも行ってみたいな!」
「ホント!? 行こう行こう~! ……あ」
わたしの言葉にはしゃいで目を輝かせたアンヌだが、不意に何かを思い出したように表情を曇らせた。
その様子にわたしは首を傾げる。
「……? どうしたの? アンヌ」
「あ、うん。ごめんね。実はMVPで思い出したんだけど、……リリスちゃん、あれからエリザベッタ様には会ってない?」
「……生徒会長? ううん、会ってないよ。ルナもだよね?」
「うん、もちろん」
隣に立つルナを確認するように見れば、わたしと同じく首を傾げていて、その反応に少しホッとする。
――生徒会長エリザベッタ・ノーブレ。
彼女とはゲームと称し、わたしの生徒会入りを賭けて体育祭でMVPの座を争ったことは、まだまだ記憶に新しい。
生徒会長のわたしに対する妨害行為やルール違反、その他のトラブルにも見舞われたが、最終的にはわたしとルナの勝利で体育祭は幕を閉じたのだった。
その後は約束通り、生徒会長がわたしに関わってくる様子はなかったから、すっかり安心してたんだけど……。
「……もしかして、何かあったの?」
「う~ん、〝何か〟ってほどじゃないんだけどね……」
少し困った顔をしたアンヌはそこで言葉を切り、「わたしも又聞きなんだけどね」と、前置きして話し始める。
「実はエリザベッタ様ね、体育祭以来誰の前にも姿を見せていないんだって」