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召喚獣には頼りません 3

※後半エルンスト視点



 アダムが掲げて見せた黒いリボンでぐるぐる巻きにされた古びた本。

 それはまるで何か悪しきものを封印でもしてあるかのようで、見ているだけで気味が悪い。


 しかしその異様な気配を放つ本を、アダムは全く意に返さないのか、スルスルとリボンを解いていく。



「ア、アダム、よく平気だね……。なんか触ると呪われそう……」


「ここまで来てビビッてられるかよ。じゃ早速、ご開帳~」


「…………」



 場違いなほどのん気な調子で本を開いて、アダムがパラパラとページをめくる。それをわたしも覗き込んで、そして書かれている内容に二人して固まった。



「え、何? 生贄……依り代……?」



 真っ黒な紙に赤い文字で書かれていたのは、生きた人間に召喚獣を憑依させて使役する方法だった。

 しかしそのやり方があまりに(おぞ)ましく、また憑依させた人間は自我を失うなど、恐ろしいことが事細かに記されている。



「……なぁ、これってつまり生贄を用意して、その生贄に釣られた召喚獣が生贄を依り代にして、召喚されるってことか?」


「うん……。きっとそんな感じだね」



 更に生贄と召喚獣が融合した状態になる為、通常では考えられない程、強大な力を持った召喚獣を召喚出来るといったことも書かれている。

 さっき校舎裏でアダムが言っていた下位召喚士の話とも合致するので、どうやらこの本が禁術について書かれた禁書で間違いないようだ。


 確かにこの方法なら確かにわたしでも召喚獣を召喚出来るのかも知れない。


 だけど――。



「ごめん、アダム。折角無茶してここまで来たけど、わたしやっぱり禁術は使えない」


「リリス……」


「退学は絶対イヤだけど、でも誰かを犠牲にしてまでなんて、考えられないよ……」


「そうだよな……。俺の方こそごめん、まさか禁術がこんな方法とは思ってなかった……」



 禁術の正体はかなりショッキングだったが、わたし以上にアダムの方が堪えたみたいだ。起死回生の方法だと言って嬉しそうだったんだから無理もない。

 落ち込むアダムを見てると、なんだか期待を裏切ってしまったように感じて居た堪れなくなる。

 なんとか励まそうと、わたしは努めて明るく声を上げた。



「でもさ! わたし、アダムのお陰でなんだか吹っ切れちゃった! 卒業テストで変な小細工はしない! 正々堂々自分に出来る精一杯をぶつけようと思う! ……だから、ありがとね」


「……そっか」



 少々照れながらはにかんでお礼を言うと、アダムもほっとしたように笑う。



「――さっ、そうと決まれば長居は無用だよ! 誰かに見つかったらまずいし、早く出よ!」



 来た時とは逆にわたしがアダムを急かして、リボンを本に巻き付け金庫に戻させ、足早に閉架図書室の外へ出る。

 すると不思議なことに、またもや扉が勝手に動いてガチャンと閉まった。どうやらロックされたらしい。

 念の為施錠を確認して、そうしてやっとわたしは生きた心地がした。



「はー……とんでもなかった。わたし、この短い時間で寿命が一気に縮まった気がする……」


「俺も」



 その場で脱力して、はははと二人で力なく笑う。

 外に出た解放感ですっかり油断していたのだ。



「――何がとんでもなかったんだ?」



 だから背後に人が立っていたことなど、まるで気づかなかった。

 しかもわたしがよく知ってる低い声に、声を掛けてきたのが誰かを悟り、わたしはまた一段と寿命が縮まった心地がする。



「閉架図書室の前で何をやっている? ここは一般生徒には関係のない場所のはずだが?」



 ギギギと声の主を見上げれば、思った通りの人物が腕を組んで立っていた。


 肩まであるサラサラの金髪、澄んだ青い瞳。人形のように表情の変わらない容貌。見間違えようも無い。


 ――わたしの兄、エルンスト・アリスタルフその人である。



「説明しなさい。リリス」



 険しい顔で兄様がわたしに詰め寄ってくる。


 まずい……! 上手く誤魔化さなきゃ!! 

 わたしは言い訳を頭をフル回転させ捻り出す。



「かっ、彼に召喚のコツを聞いていたんです! ほら、わたしって悪い意味で有名人なんで人目を避けていたら、ここに辿り着いたっていうか……! ねっ! アダム!」


「おっ……おう」



 兄様に圧倒されてすっかり棒立ちで固まっていたアダムが、わたしの圧に押されてコクコクと首を振る。



「では兄様、わたし達は用事も済みましたし帰りますね!」



 とりあえず終始笑顔を作り、わたしはアダムの腕を引っ張ってこの場の離脱を試みる。



「いやリリス、待ってくれ! お前にひとつ聞きたいことが……!」



 焦ったように兄様が何事か言っていたのは聞こえたが、これ以上詮索されるとボロが出るので、全部聞こえないふりをしてわたしは脱兎の如く走り去った。



 * * *



「…………」



 嵐のように走り去ったリリスの勢いに呑まれ、聞きたいことを聞きそびれてしまった。


 ――それに、もうあの気配は感じない……か。


 閉架図書室付近に感じたことの無い程の強大な気配を感じ、禁書のこともあり慌ててこちらに駆けつけたのだが、感じた気配は既に無く、居たのは妹であるリリスとその友達だけだった。


 閉架図書室には誤って入る者がいないよう強固な封印魔法が施されており、私を始め、封印を解除出来る者は世界でも数名しか居ない。その為、盗みの心配はハナからしていなかったが……。

 念のため扉の封印を探ってみるが、やはり誰かが扉に触れた(・・・・・・・・)形跡はない(・・・・・)


 しかしだとすれば、あの気配はなんだったのか。

 リリスはああ言っていたが、あの場に居たことは本当に偶然なのだろうか……?



「……ん?」



 考え込んでいると、私の足下に何か白いものが落ちていることに気づいて、それを拾い上げる。



「白い……羽根……?」


 

 見ればそれは純白の羽根だった。かすかに何かの魔力を帯びている。

 室内の、しかもこんな隅の薄暗い場所にある閉架図書室の前。

 そんなところに何故こんなものが? 誰かの召喚獣が落としたのか?


 じっと羽根を見つめるが、答えはいつまで経っても出ることはなかった。




=召喚獣には頼りません・了=



次回『卒業テストは一筋縄ではない』

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