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甘いのはお菓子のせいじゃない 6



 そもそも当たり前過ぎてすっかり頭から抜けていたけど、ルナは他の召喚獣と違い人型だ。

 側から見れば手を繋いだり、食べ物を食べさせたりする行為は恋人同士のそれに見えていただろう。


 なのにわたし自身はさっきメグちゃんに指摘されるまで、そんなことまるで気づいていなかった。

 今まで無意識にしていたイチャつきとも取れる行動の数々を思い出し、頬が熱くなる。



『それって、ホントにピグに対する気持ちと同じか……?』



 不意に昨日の体育祭の障害物競走中にアダムに言われた言葉が脳裏に蘇った。

 あの時のわたしにはその言葉の意味が分からなかったけど、今なら分かる。アダムはわたしが自覚するより前に、わたしの気持ちに気づいていたんだろう。


 思えばアダムはいつだってわたしとルナが一緒に居ると微妙な顔してた! 内心どう思われていたのか、考えるだけで恥ずかしい……!!



「――――リリス!!」


「!!?」



 突然ぐっと手を掴まれる感覚がしたと思うと、そのまま一気に体の向きを変えられる。そして目の前にルナの真剣な表情が飛び込んできて、わたしの体はピキーンと硬くなった。

 そんなわたしの様子をどう捉えたのか、ルナが困ったように眉を下げて口を開いた。



「ごめんねリリス」


「…………え?」



 いきなり謝られ、掴まれた手のことなど忘れて、わたしはポカンとルナの顔を見つめる。



「まだ昨日の疲れが残ってて、体調悪かったんでしょ? だからさっきも一緒に探しに行かなかったんだよね。ごめんね気づかなくて」


「……っ、ちがっ! そうじゃないから! 本当に体調が悪いとかじゃなくて! ごめん、わたしの方こそルナぬ変な態度とっちゃった。全然ルナは悪くないから、謝らないで」



 酷い誤解にわたしが慌てて否定するが、それでもルナは浮かない表情のままだ。



「そう、なのかな……? でも僕、今日は全然リリスをちゃんと見てなかった。リリスにデートに誘われて、しかも初めての場所に行く相手に僕を選んでくれて。……正直、周りも見れないくらい、浮かれてた」


「…………っ!!」



 ルナの言葉に頬が一気に熱くなるのを感じる。


〝初めての相手……〟


 確かにルナは今朝もそんな風に言って嬉しそうに笑ってた。

 あの時わたしはそう言われて恥ずかしくて。

 でも本当はそれと同じくらい、わたしだってルナが初めてテーマパークに来たと聞いて嬉しかったのだ。


 認めてしまえば、ストンと胸に落ちる。

 そして溢れるのは、胸躍るようなトキメキと果てのない愛おしさ。


 ――こんな気持ち初めて。


 一度気づいてしまえば、それは驚くような速さでわたしを侵食し、触れ合った手は火が出そうなほど熱かった。



 * * *



 そろそろ夕暮れ時ということもあって、ショップはお土産を求めるお客さんでいっぱいだった。



「あ、これアダムにいいかも」



 わたしは商品がたくさん並んだ棚から、ハリネズミを模した小さなぬいぐるみのついたキーホルダーを手に取った。

 うるうるとしたつぶらな瞳のハリネズミはどことなくピグくんを彷彿とさせ、これならばこだわりの強いアダムでも受け取ってくれるような……気がする。



「うん、アダムにはこれに決定。あとアンヌには……」



 そこまで呟いて、隣に居たはずのルナが居ないことにはたと気づいた。

 もしかしてはぐれた!? そう一瞬焦ったが、すぐに店員さんの「ありがとうございました!」と明るい声のした方を見れば、ルナがレジで何やら商品を受け取っているのが見えた。


 なんだ、買い物してただけか……。


 買い物を覚えたのはつい最近の筈。

 それだってわたしがしているのを見ているだけだったのに、いつの間に自分で出来るようになったんだろうか。


 ルナは驚くべき速さで人に順応しようとしている。

 それはわたしの為だって言っていた。

 でもたくさんの人と関われば、いずれわたしのことなんて興味無くなってしまうかも知れない。


 そう思うと、少し――……怖い。



「リリス? ボーっとしてるけど、やっぱり体調悪い?」


「あ」



 いつの間にか買い物を終えたルナがわたしの前に立っていて、また心配そうな顔をしている。

 それにわたしは慌てて首を横に振った。



「いやさっきも言ったけど、体調は超元気だから! 本当に心配しないで!」


「だったらいいけど……。お土産は選べた? 買ったらもう帰る? それともまだ時間あるし、何か乗る?」


「そうだね……」



 少し考えてショップの外を見れば、既に陽は落ちていた。

 明日はまた授業があるし、あまり遅くなると寮の門限にも間に合わなくなる。

 けれど後ひとつくらいなら乗り物に乗れる時間だ。


 わたしはまだ、この時間を終わらせたくない。

 そう思ってルナを見上げた。



「――だったら、最後に乗りたいものがあるの」



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