甘いのはお菓子のせいじゃない 5
「羽根の生えたお兄ちゃん、とってもキレイだったね~」
ペロペロとコーンの上にウサギに見えるように飾り付けられたアイスを舐めながら、メグちゃんがウットリと言う。
どうやら先ほどの一件で、すっかりルナをお気に召したようだ。テーブルに置いたルナの羽根を何度も何度も撫でている。
「……あはは、なんかキラキラしてるよね。わたしの召喚獣なんだよ、一応」
「召喚獣? お姉ちゃんの恋人は召喚獣なの??」
「ゴフッ!!?」
純粋な瞳で不思議そうに言われて、思わず食べていたパンダを模したアイスを吹き出しそうになった。
「えっ、恋人!? 違う違う!! わたしとルナはそんなんじゃないよ!!」
真っ赤になって慌てて否定すれば、メグちゃんの表情はますますハテナマークでいっぱいになる。
「でもさっきお姉ちゃん達がハンバーガーを食べてた時、食べさせ合いっこしてたでしょ? メグ知ってるもん! ああいうのは恋人がするんだって!」
「たべっ……!?」
メグちゃんはどうしてそんなこと知ってるの!? とか、まさかあのシーンを見られてたなんて!? とか、色んなことが一気に頭の中を駆け巡る。
そしてあわあわと上手く言葉を返せないわたしに、メグちゃんは更に問いかけてきた。
「じゃあお姉ちゃんは、お兄ちゃんのことが好きじゃないの?」
* * *
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとー!」
「うん、もうはぐれないようにね」
――あれから言葉通り、ルナは速攻でメグちゃんの両親を連れて来た。
メグちゃんはお父さんに抱っこされ、振り返りざまに何度もこちらへと頭を下げる両親に連れられて去っていく。その小さな腕にはウサギ型の召喚獣ラビが抱えられており、確かにあのハンカチの柄にそっくりだと思った。
「バイバーイ!」
「バイバイ!」
メグちゃんがブンブンと手を千切れんばかりに振るので、こちらも大きく振り返す。そうして姿が完全に人混みに紛れて見えなくなったところで、ようやくわたしはふぅと強張っていた肩の力を抜いた。
するとその様子に目ざとく気づいたルナが、わたしを見て首を傾げる。
「リリス、疲れたの? ……もしかしてあの子と二人の時に何かあった?」
「え゛!?」
「その反応、やっぱ何かあったんだ」
あからさまに肩をビクつかせると、ルナが探るように視線をこちらに向けた。
「いや何かって……、本当にルナが心配するようなことはなんも起きてないよ! ただメグちゃんが無事に両親と再会出来てよかったなって、安心してただけ!」
「…………」
言い募れば言い募るほど、ルナは疑わしそうにこちらを見つめるので、わたしは冷や汗をかく。
だけどルナは勘違いしているのだ。
わたしが変なのは何かあったからじゃなくて、ただ――……。
「……? 本当に何もなかったならいいんだけど、じゃあこの後はどうするの? まだ時間あるし、乗り物に乗る?」
「…………っ!」
言いたくないのを察してくれたのか、ルナが話題を変える。しかしそのままわたしの手を取ろうとしてきたので、思わず体を後ろに下げてそれを避けてしまった。
「……リリス?」
するとやはりというか、ルナは目を丸くしてわたしを見てくる。その様子にわたしは焦って口を開いた。
「お、お土産!! アダムやアンヌにお土産買いたいし、アトラクションよりショップに行きたいかな!!!!」
「え、リリス!?」
言い切って有無を言わさず、一直線にショップへと足早に向かう。
行き交う人々を避けながらずんずんと歩いている間も、考えるのはルナのことだ。
ついあからさまにルナに触れられるのを避けてしまった。
驚いた顔をしていたが、ルナは何を思っただろう。
嫌な態度をとってしまって、申し訳ない気持ちになる。
けれどダメなのだ。
わたしは今、ルナに触れることに過敏になってしまっている……。
『じゃあお姉ちゃんは、お兄ちゃんのことが好きじゃないの?』
――何故ならわたしもう、その問いの答えに気づいてしまったのだから。