甘いのはお菓子のせいじゃない 4
「あっ、話し込んじゃってごめんね! そうだ、お名前は言える? どうして一人で居たの?」
「う……」
わたしのワンピースの裾を引っ張る女の子のその小さな手を取って、なだめるように優しく問いかける。
すると女の子はポツポツと話し出した。
「あたし……メグ。お父さんとお母さんと、召喚獣のラビも一緒にぬいぐるみさんが踊ってるの見てたの。でも……」
「はぐれちゃった?」
わたしが言葉を引き継げば、小さな女の子――メグちゃんは「うん」と頷き、またぐすんと鼻をすすった。
迷子ならば今頃両親も探している筈。早く帰してあげなければ。
「うーん、でもパーク内は広大だし、なかなか歩き回ってるだけじゃ見つからないよね。とりあえず迷子センターに連れて行くのが先かな」
「待った。その子の召喚獣が両親と一緒に居るのなら、魔力でその召喚獣の居処は特定することが出来るよ」
「ええ!? ルナ、それホント!?」
さらっと言われた言葉に驚き、わたしは目を丸くする。
「それって魔法で?? そんな便利なことも出来るの!?」
「うん、一般的には探知魔法って呼ぶかな。ねぇ、何か君の持ち物を手に出してくれないかな?」
イスから立ち上がったルナが、メグちゃんの目線に合わせてしゃがみ込んでそう聞く。
「んー……、これ」
するとメグちゃんは少し考える仕草をしてから、スカートのポケットから、おずおずと一枚のハンカチを取り出した。
「あっ、その柄かわいい! ウサギさんなんだね」
「えへへ、ラビに似てるからお気に入りなの」
ハンカチを目にしてわたしがそう褒めると、メグちゃんは照れたようにはにかんで教えてくれる。
「うん、それなら上手く魔法が掛かりそうだ。――いくよ」
そう言ってルナがハンカチ目掛けて指を軽く振った瞬間、たちまちメグちゃんの手の上のハンカチが、ウサギの形に変化した。
「わぁっ……! かわいい~!!」
まるで本物のように鼻をひくひく動かしている手の中のハンカチウサギを見て、メグちゃんが目を輝かせる。
これにはわたしもすっかり目を奪われてしまい、感嘆の溜息をついてルナを見た。
「それでこのハンカチウサギを使って、どうやって魔力でメグちゃんの召喚獣を探すの?」
「召喚士は自らが使役している召喚獣と同じ魔力を微力ながら発していて、それは身に着けているものに匂いのように移る。だからこのハンカチに、同じ魔力を発する召喚獣を探させるんだ」
ルナがそう言い終わると同時に、ハンカチウサギがぴょん! とメグちゃんの手から地面へと降り立つ。
そしてそのまま行き交う人々を避けながら、どこかへと跳ねて行ってしまった。
なるほど。召喚獣が見つかれば、おのずとメグちゃんの両親にも辿り着けるってことか。
「ならウサギを追いかけるのはルナに任せるよ。両親を見つけたら、ここまで連れて来て」
「え? 任せるって、じゃあリリスはどうするの?」
「もちろんここでメグちゃんと待ってるよ。だってメグちゃん、両膝をケガしてるんだよ? あんまり歩かせるのは可哀想だもん」
当然とばかりにわたしがそう言うと、ルナが渋い顔をした。
「それは無理だ。リリスを一人にして、万が一何かあったら……」
「こんな人の多い場所で一体何があるっていうの? もしあったとしても、ルナがすぐに来てくれるんでしょ? だったら心配いらないよ」
「…………天然」
「なんでよ!?」
本心からそう思っているから言ったのに、ルナは不機嫌にプイっとそっぽを向いて、相変わらず訳の分からないことを言う。
そして思わずツッコミを入れたタイミングで、ルナが羽根を広げて一気に飛び上がった。ふわふわと、その真っ白な羽根が空からわたし達のもとへと幾枚も舞い散る。
「ちょっ!? 上見て!! 羽根の生えた人が空を飛んでるわ!!」
「えぇ!? 真っ白ですごいキレー!! もしかして何かのイベント!?」
するとこの場に居合わせた周囲の人々もルナに気づき、空を見上げて何だ何だと歓声が沸き起こった。
しかしルナは地上のざわめきも意に返さず、猛スピードでハンカチウサギを追って飛び去ってしまう。
「リリス! 速攻で連れて来るから、絶対にそこ動いちゃダメだからね! 絶対だよ!!」
――そんな言葉を、最後に残して。
「もう……。色々あったから気持ちは分かるけど、ちょっと心配性過ぎだよ……」
ルナの姿が完全に見えなくなった後もこちらを伺う好奇の視線は感じたが、わたしは素知らぬふりをして、ルナが落とした羽根で遊んでいるメグちゃんに笑いかける。
「ねぇメグちゃん。ルナがお父さんとお母さんを連れてくるから、それまでアイスでも食べて待っていようか」
そう言って動物をかたどったアイスが売っている屋台を指差せば、メグちゃんは目をキラキラさせて、「あたしウサギさんのがいい!」と元気に答えた。