甘いのはお菓子のせいじゃない 2
王都には王国中から客が集まる、大型テーマパークが存在する。
その名も、『ファンタジーアニマルランド』
スリル満点の絶叫系からメルへン漂うほのぼの系まで様々なアトラクションがあり、召喚獣をモチーフにした動物の着ぐるみ達は来園者を笑顔に変える魔法の持ち主だ。
そんな老若男女問わず人気のテーマパークの無料チケットがMVPの賞品のひとつだったので、今回有り難く使わせてもらうことにしたのである。
「わ~! 僕テーマパークなんて初めて来たよ! こんなに賑やかなところなんだね!」
ゲートをくぐれば、美味しそうな甘いチュロス匂いが漂う屋台に、色とりどりの風船を売り歩くお姉さん。更に動物の着ぐるみ達が並んで踊っていて、大勢の人々が歓声を上げて辺りを取り囲んでいる。
それらをぐるっと見渡し、わくわくと楽しそうに言われ、やっぱりルナを誘ってよかったと思う。
「うん、実はわたしも来るのは初めてなの。ずっと来てみたいって思ってたから叶って嬉しい」
「え? あのソバカス君や、君の兄とは来たことないの?」
意外そうに目を丸くして言われるが、その問いにわたしの方こそ驚いた。
「アダムと兄様?? ないない! ないよ! アダムはこういう人が多いところは好きじゃないし、兄様はそもそもこんなところ一緒に行くような気安い仲じゃないって、ルナも知ってるでしょ?」
全否定すれば、ルナが分かりやすいくらいご機嫌になって、わたしの手に手を絡めてぶんぶん振る。
「じゃあリリスは初テーマパークで、その初めての相手が僕なんだねっ! すごく嬉しいよ!」
「はじ……っ!?」
なんでそう一々いかがわしいというか、怪しい言い方をするんだ!
そんな言葉が喉の奥まで出かかったが、ルナが楽しそうに、「あの高い山を猛スピードで下る乗り物、すごく面白そう!」と無邪気にはしゃいでいるのを見て、それを飲み込んだ。
「リリス、何から乗ってみようか? やっぱりあの高い山? それともあのクルクル回ってるやつ? あっ! あのおっきい円に小さなゴンドラがついてるやつも面白そう!!」
「うーん、どれも気になるよね。よしっ! じゃあ全部制覇しよう!!」
目をキラキラさせてわたしを見るルナにクスリと笑って、繋いだ手をそのままに一緒に駆け出す。
折角の初テーマパークなのだ。
めいっぱい楽しまなきゃ!
* * *
――それからわたし達は、色んなアトラクションで遊んだ。
ジェットコースターにすっかりハマったルナにせがまれて、ふらふらになるまで乗りまくったり、コーヒーカップをルナにグルングルン回されて目を回したり……。
更にはお化け屋敷で、ルナが魔法で逆にお化けを脅かしたりもした。
そうやって全力で楽しんでいたら、ちょうどお昼時になったので、屋台のハンバーガーセットをテイクアウトして今はお昼ご飯中である。
「ん~! このハンバーガー美味し~!!」
屋台前に並べられたテーブル席に座って、購入した照り焼きハンバーガーにかぶりつけば、甘辛いタレをまとったハンバーグと酸味の効いたマヨネーズソースが絡んで絶妙な味わいが口いっぱいに広がった。
「へぇ、それ美味しいんだ?」
そう言って向かいに座っていたルナがおもむろにわたしが持っているハンバーガーの前へと顔を近づけ、がぶりと思いっきり齧りついた。
「あーーっ!!? なんでわたしのハンバーガー食べるの!? 今日はルナの分も買ったのに!!」
わたしが悲鳴を上げれば、もぐもぐと口を動かしていたルナが、「だって」と口を開く。
「僕のと違う種類のだし。それにやっぱり僕は、リリスが食べてるものが食べたいんだもん。ほら、お返しに僕のも食べていいからさ」
「うー……」
そう言ってルナが持っているチーズバーガーをわたしに差し出してくるので、わたしも一口かぶりつく。そのままもぐもぐと咀嚼すれば、まったりとしたチェダーチーズとジューシーなハンバーグの抜群のコンビネーションが口の中でハーモニーを奏でた。
「どう? 美味しい?」
チラリと目線を上げれば、ルナがニコニコとこちらを伺って聞いてくる。
確かに人から分け与えられると、普段よりちょっとだけ美味しく感じる……かも? なんとなくだけど、いつもルナがわたしの食事を欲しがる気持ちが分かったような気がした。
……そうそう、療養生活の時から始めたルナを介しての召喚獣の生態調査だが、実は今でもこっそりと続けている。その結果、やはり召喚獣は睡眠・入浴・食事といった、人間にとっては不可欠の要素がなくても生きていられるということが分かった。
しかしそんなもんなんだなぁと納得してから少しして、ルナが「リリスがやっていることを僕もやってみたい!」と言い出したのだ。それ以来ルナはお風呂に入ったり、眠ったり、こうやって食事をしたりもする。
どういう心境の変化でそうなったのかは謎だが、どんどん人に近づいていくルナを側で見ているのは楽しかった。
今度は味覚の好みがあるのかも調査してみてもいいかも知れない。なんて思いながらコーラを喉に流し込む。
――そんな時だった。
「うわぁぁぁぁぁあん!!」
突然大きな泣き声が響き、わたしとルナは顔を見合わせて声の方へと振り返る。
するとわたし達のすぐ後ろで、両の膝小僧を痛々しく擦りむいた小さな女の子が地面に座り込んでいた。