表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/131

体育祭 元落ちこぼれvs女帝 17

※後半三人称



「え? 面会出来ないんですか……?」



 レースの後、MVPの表彰式を終えたわたしとルナは、その足でアダムのお見舞いに行こうと医務室に来たんだけど……。



「ええ、本人が今は誰にも会いたくないと言っているの。体調自体は安静にしていれば治るから安心して。高等部に入ってすぐに体育祭だったし、きっと疲れが出たのね。毎年こういう新入生は多いのよ」


「そうですか……」



 医師の先生にそう諭されてしまえば引き下がるしかない。

 わたし達はお礼を言って医務室を後にする。



「アダム……会いたくないって、一体どうしたんだろ……」


「リリス。心配だろうけど、先生も安静にしてたら治るって言ってたんだし、今は彼が回復するのを待とう。今日は色々あって疲れたでしょ? 明日は学園も休みだし、リリスもゆっくり休もうよ」


「うん……」



 確かにルナの言う通り、今アダムにわたしが出来ることはないのだから、とにかく待つしかない。

 素直に頷いて寮へと戻る道すがら、私の脳裏にふとある人物が浮かんだ。



「そういえば生徒会長……。表彰式の時にはもう姿が見えなかったけど、約束通りわたしの生徒会入り、ちゃんと諦めてくれたのかな?」


「どうだろ? けど自分から勝負を吹っかけた上に、ルール違反を犯してまで負けたんだ。プライド高そうだし、もう自分を負かした相手を生徒会に入れようなんて考えないんじゃないかな?」


「そっか、そうだといいな……」



 ルナにはレオナルドに幻覚魔法を掛けられた時に起きた、あの不思議な場所での出来事については話していない。上手く言葉で説明出来る自信はなかったし、それに何より、〝ルナ〟と名乗ったあの人のことをルナに話していいのか何故だか迷ってしまったからだ。



「あ! そういえば、ルナはあのステージで生徒会長と握手した時に、わたしがレオナルドに魔法を掛けられたの分かってたんでしょ? なんで何も言ってくれなかったの?」


「うーん。あの場で止めると、また何か別の手を講じてきそうだったからね。ならそのままにした方が手の内が分かっている分対策しやすいと思ったから」


「そっか」



 つまりルナなりに、色々わたしの為に考えてくれていたということだろう。


 他にも気になることはあったが、ルナには今日わたしのことでたくさん心配を掛けてしまった自覚がある。だから今はもうこれ以上、心配させてしまうような話はしない方がいいと思った。

 しかもMVPを取れたのも、生徒会長とのゲームに勝てたのも、ルナがいなければ成しえなかったことだ。

 感謝と慰労の気持ちを込めて、何かお礼が出来たらいいんだけど……。


 ぼんやり考えていると、横からガサガサと紙の擦れる音がした。それに視線を向ければ、ちょうどルナが歩きながら分厚いカードの束に一枚一枚目を通している最中だった。



「ところでこれがMVPへの賞品? 学食無料券に、王都人気スイーツ店無料券……。へぇ、授業5回までならサボれる券まである。面白いなぁ、色々貰えるんだね。これで僕とリリスも堂々と授業をサボってデート出来るね」


「いやサボらないし。わたし一応素行は真面目で通ってるんだからね。不良の道に引き込もうとしないで。……そもそもそれ、よく先生達が了承したよね」



 アンヌが言っていた通りの賞品のラインナップに思わず苦い顔をする。しかしルナの〝デート〟という言葉で、わたしはあることを思いついた。



「――ねぇルナ、ルナのしたいことって、何?」


「え? リリスと居ることだけど」



 即答で予想通りの返答をされ、わたしは歩く足を止める。するとルナも同じように足を止めて、わたしの様子を伺い不思議そうに首を傾げた。



「リリス?」


「あの……ルナ……、あのね……」


「うん」



 視線をあちこちウロウロさせてわたしが中々言い出せずにいると、ルナが優しく言葉の先を促してくれる。

 その様子に背中を押されたわたしはようやく決心して、頭ひとつ分高いルナの顔を見上げて言った。



「だったらルナ、明日は王都でデートしよう!!」



 * * *



「このわたくしが負けるなんて、あり得ない!!! あり得ないわ!!!!」



 小うるさくまとわりついてきた生徒会の生徒どもを追い払って、エリザベッタは温室に戻るなりそう叫んだ。そして彼女のすぐ側で「クゥーン……」と慰さめるような鳴き声を出したレオナルドをギッと睨みつける。



「そもそもレオナルド!! お前が悪いのよ!! 解けない筈の幻覚が解け! リードしていたにも関わらず、足でも翼でも競り負け! このっ役立たずが!!!」


「ギャン!!」



 エリザベッタがレオナルドの体を先の尖ったヒールで思いっきり蹴りつければ、苦しそうな声を上げ、その巨体は小さくうずくまった。

 それをエリザベッタは見やってフンッと鼻を鳴らし、そのまま温室の最奥にある玉座のような朱色のソファーに腰掛けて親指の爪をギリギリと噛む。



「そうよ、わたくしは神に特別に愛された〝神の愛し子〟! あんなほんの数ヶ月前まで召喚獣すら居なかった人間に負けていい筈がない……!!」



 怒りで歪むその顔は普段讃えられるような優雅な美貌など微塵も感じられず、醜悪とすら言えた。

 そんな自身の容貌に気づかぬまま、エリザベッタは言葉を続ける。



「わたくしにこんな屈辱を味わわせるなんて……!」



 怨嗟の声は重く温室に響き、禍々しいオーラが漂う。そしてそれはやがてエリザベッタをも包んだ。



(けが)れた夜の魔女リリス・アリスタルフ……! 絶対に許さない……!!」




=体育祭 元落ちこぼれvs女帝・了=



次回『甘いのはお菓子のせいじゃない』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ