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体育祭 元落ちこぼれvs女帝 16

※三人称



 体育祭でMVPを取ることを生徒会入り回避の条件にした当初、エリザベッタはリリス・アリスタルフには絶対にMVPは無理だと考え、この条件を提案した。


 ただの女子生徒であるリリス・アリスタルフは男子生徒達の体力や運動能力に叶う訳はないと思っていたし、召喚獣のルナとていくら強くて魔法に長けていても、所詮は人型。肉体だけならば、動物型の召喚獣の方が遥かに運動能力は上だろうと高を括っていたのである。


 ――だが、実際はどうだろう。


 リリス・アリスタルフは男子生徒に混じっても遜色なく、いや寧ろ圧倒した運動能力を見せつけた。そしてルナもまた人型とは思えない卓越した力で他を寄せ付けず、あれよあれよという間にポイントはぶっちぎりのトップ。

 これにはさすがのエリザベッタも危機感を感じ、件の障害物競走では絶対に勝たせないよう様々な細工もしていたのだが、それも全てルナによって不発に終わってしまった。


 しかし今回こそは、この状況を覆すことは出来ないだろうとエリザベッタはほくそ笑む。

 なにせステージで対面した際に、レオナルドに強力な幻覚をリリス・アリスタルフへと掛けさせたのだ。今頃は幻覚の中に作った出口の無(・・・・)い迷路(・・・)を彷徨っているだろう。



「ふふ。――さぁ、勝利はもう目と鼻の先よ。悪く思わないでね、アリスタルフさん」



 エリザベッタが勝利を確信し、そう呟いた時だった。



「そこの生徒会長、待ちなさーーーーいっっ!!!!」



 とんでもない大声がエリザベッタの耳に痛いくらい響き、次いで実況が興奮したように熱弁を振るう。



『おーーっとぉ!! 何故か途中、石のように動かなくなったアリスタルフ選手が復活だぁーーっ!! なんとなんと! 超猛スピードで、エリザベッタ様を背に乗せるレオナルドを猛追しているぞーーーーっっ!!!!』



 これには観客席も途端に騒がしくなり、エリザベッタがポカンとした真横を一瞬で〝何か〟が通り過ぎる。


 ……いや、〝何か〟ではない。


 両手に掴んだリリス・アリスタルフをぶら下げて、ルナが猛スピードでその美しい羽根を羽ばたかせて飛んでいるのだ。

 理解した瞬間、エリザベッタは叫ぶ。



「リレーなのに走らずに飛ぶなんてルール違反だわ!! こんなの失格よ!!」


「ルール違反って言うなら、先に禁止されてる魔法を使った生徒会長が失格でしょーー!! 現MVPで競技には一切参加してなかったから、魔封じの腕輪をつけていないなんて盲点だったわ!!」



 負けじとリリス・アリスタルフも叫び返す。

 実況と観客席も接戦となったことで一気に盛り上がり、ルール違反のことなど頭の外なのか、ただただこのレースの勝者がどちらなのかだけに注目し、騒ぎ立てている。

 エリザベッタはギリッと音が聞こえるぐらい強く歯を食いしばり、レオナルドの背中を何度も叩きつけた。



「レオナルド!! こうなったら貴方もお飛びなさいっ!! このままでは追いつかれてしまうわ!!」


「グオオオオォォォーーーーッ!!!!」



 エリザベッタの命令にレオナルドは咆哮を上げ、その巨大な羽根をはためかせる。しかしその巨体では思ったようなスピードが出せる筈もなく、こちらと同じくラスト1周となったルナ達がもうすぐそこまで迫っていた。



「わたくしは〝神の愛し子〟!! 負ける筈がない!! 絶対に負けられない……っ!!」



 常とは違う必死の形相で、エリザベッタがゴールテープを捉える。そしてルナ達の気配がまだ後ろにあるのを確認し、改めて勝利を確信したように口の端をつり上げた。



「ここまでわたくしを手こずらせたのはお見事だけど、残念ね。勝つのはこのわたくしよ!!!」



 言って、エリザベッタはゴールテープに白く細い手を伸ばす。

 しかし同時にその手に影がかかり、背後にいたのは――……。



「させない――!!!!」


「!!?」



 その声にエリザベッタが弾かれたように顔を上にあげると、ルナによって勢いよく投げ出されたリリス・アリスタルフが、空を放射線状に地上に向かって跳んでいくのが見えた。

 それはまるでスローモーションのように感じられ、そして――――。



『ゴーーーーーーーール!!! 今年のMVPはリリス・アリスタルフに決定だぁーーーーっっ!!!!!』



 瞬間、観客席からは爆発したような歓声が瞬く間に広がり、興奮した大勢の生徒達がトラックへと我も我もと駆け出す。

 そしてあっという間にリリス・アリスタルフの周りには人だかりが出来、その姿が人混みに呑まれ見えなくなる。


 自分を差し置いて他人が注目されることなど、エリザベッタにとっては生まれて初めての経験だった。

 ギリッと手のひらに爪が食い込むほど強く手を握り締め、俯いたその表情は見えない――……。



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