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体育祭 元落ちこぼれvs女帝 14



 競技場にいた筈が、気がついたら綺麗で不思議な場所でした……――って、



「ないない! そんなこと普通あり得ないって! あっ! もしかしてわたし、リレーの最中に夢でも見てる……??」



 思い立って頬をぎゅっとつねってみるが、当然ながら痛い。

 そもそも頬を撫でる柔らかな風も、鼻に香る優しいお日様の匂いも、全部が全部リアルで、やっぱり夢とは到底思えなかった。



「でも現実なら、どうしていきなりこんな場所にいるんだろ? うーん。それにこの場所、なーんか前にも見た気がするんだよねー……」



 首を捻りしばし考える。そしてハッと頭に浮かんだのは、あの生徒会長が〝神の楽園〟と呼んでいた温室だった。



「そうだ〝神の楽園〟……! 色はあの温室みたいに真っ白じゃないし、規模も全然比べ物にならないけど、思えばあの温室にこの場所の雰囲気はそっくりじゃん!!」



 ということは、この現象の犯人は生徒会長ということ!?

 にわかには信じがたいが、障害物競走で現れたお城が全てレオナルドの幻覚だったことを思えば、あり得ない話じゃない……っ!



「……やられた」



 いつから幻覚に掛かっていたのかは定かじゃないが、相手の術中にまんまと嵌ってしまったことにわたしは頭を抱える。

 せっかくマグナカール先生も、〝生徒会長は勝つ為には手段を選ばない可能性もある〟って忠告してくれてたのに、活かせなかった……。



「とにかくっ! 悔やんでても仕方ないし、早くこの場所から出る方法を探さなきゃ! きっとルナも動いてるかもだけど、だからって待ってるだけじゃダメだもん!!」



 そう決意して早速わたしはこの不思議な場所をあちこち見て回る。

 するといきなり見ず知らずの場所に放り出されたにも関わらず、何故かこの場所に懐かしさを感じている自分に気がついた。


 ……でも懐かしいって、なんで??


 ただ温室とダブらせてるだけだろうか? でもなんかそういうのとも違うような……?



「んー……、分かんないっ!」



 考えても答えが出ず、モヤモヤしながら歩いていると、不意に後ろから声を掛けられた。



「――――リリス」


「えっ!?」



 聞き慣れた声にはっと振り返れば、思った通り、見慣れた白い髪に白金の瞳。それに真っ白な羽根を生やしたルナが立っていた。わたしは見知った相手にホッとして、側まで駆けていく。



「ルナ!! よかった~っ! ルナもこの場所に居たんだね! ここってどこだか分かる?? 早くリレーに復帰しなきゃだし、急いで出口探そ!」



 わたしが慌てて言い募れば、ルナは不思議そうにキョトンとした顔をした。



「何を言っているの、リリス? ここは君が創っ(・・・・)た世界(・・・)。出口なんてある訳ないでしょ」


「……はい??」



 当たり前のように言われて、今度はわたしがキョトンとした。


 ……わたしが創った世界?? 出口がない……?


 なんだかルナと話が噛み合わない。

 不安になり、改めてルナをよくよく見れば、おかしなことに気づいた。

 今日は体育祭で、だからルナはわたしと同じ学園指定のジャージを着ていた筈なのに、今目の前にいるルナはいつもの神官風の服を着ている。



「――って、ええ!!?」



 更になんとなく自分にも視線を落とせば、なんとわたしもジャージではなく、ルナと同じような神官風の白いワンピースを着ていたのだ!

 それになにより、この肩から零れ落ちる髪の色は――……。



「……っリリス!?」



 ルナらしき人物に呼び止められるのも構わず、わたしはダッシュで側にあった小さな川へと走る。そして勢いよく水面を覗き込んで、わたしは絶叫した。



「かっ、髪が金色!? 目も青いし……なんで!?」



 まるで幼い頃の自分の髪と瞳の色みたいだ。

 わたしはこの色が成長するにつれて黒く染まることによって、数々の苦い体験をしてきた。

 それを思い出して表情を曇らせると、水面に映る女も同じ顔をしており、それは正しく色は違っても自分であることを再確認させる。


 何、ここ……。本当に一体どうなってるの??


 生徒会長の仕業にしても、異常に手が込んでいて、わたしの姿まで変化させるなんて悪趣味もいいとこだ。

〝神の色である白に近い色素を持つ者ほど、神に愛されている〟……わたしにそう言ったのは、生徒会長の癖に。



「リリス、一体どうしたの? 今日の君はなんだか変だよ?」


「あ、ルナ……?」



 怒りを隠さずブルブル震えていると、ルナとよく似た人物は心配そうにわたしの両頬に手を添え、そのままわたしの瞳をじっと覗き込んでくる。


 ルナのようでルナでない、誰とも分からない人物である筈なのに、わたしの頬を撫でる甘さを含んだその仕草に、何故か胸がドキリと跳ねてしまう。



「あ、あの、貴方は……」


「――ねぇ、ここを出るなんて言わないで。確かに〝天使〟は〝夜の魔女〟に滅ぼされ、もう僕しか残っていない。君の天使達を救いたい気持ちは分かる。でも僕は、ただ君とずっと居られたらそれでいいんだ」


「――――?」



 ……天使? 夜の魔女??


 よく分からない単語に思わず聞き返したくなるが、しかしすがるような白金の瞳に見つめられ、言葉が詰まる。

 そしてそのままぎゅっと温かな体温に包み込まれて、なんだか頭がぼぅっとしてきた。



 ここが何なのかも、ここを出たい理由も、全てが曖昧になっていく――……。



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