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召喚獣には頼りません 2



「き、きんじゅつ?」


「そ、禁術」


「…………」



 言葉は軽い調子だが、アダムの顔が冗談ではないと告げる。


 ――禁術。


 文字通り不都合があり現在は禁止にされた召喚式を指す。



「知ってるか? 学園の図書館の一般生徒じゃ入れない閉架図書室には禁術について書かれた禁書が隠されてるって噂」


「まさか忍び込む気!? ダメだよ! もしバレたら……!!」


「お前、そんなこと言ってる場合かよ? このままじゃ本気で退学になるぞ」


「う」



 アダムに指摘されて思わず口を噤む。

 確かにこのまま闇雲に召喚を試みたところで成果が出るとは思えない。



「そもそも禁術ってのは、時の下位召喚士達が権力振るってる上位召喚士に抗う為に編み出した特別な召喚式だって言われてる。んで、それを恐れた上位召喚士達が使用できないように禁じ始めたのが、禁術って呼ばれるようななった始まりらしいぞ。つまり! 落ちこぼれのお前でも召喚成功するかも知れねーってことだよ!」


「そ、それはそうかも知れないけど、だからって……」


「んだよ、召喚獣が居なきゃテスト受けられないんだぞ? それとも他に何かアテでもあんの?」


「アテ……」



 言われて真っ先にルナの顔が浮かんだが、慌てて振り払う。



「アテなんて無いよ! けどきっと禁書は厳重に隠されてるに決まってる! わたしはアダムまで退学になるなんてイヤだよ!!」


「俺はこのままお前が退学になる方がイヤだ」


「っ!」



 いつになく真剣な表情のアダムにわたしは言葉が詰まり、押し黙る。

 そして頭の中で何度も何度も葛藤し、腹をくくった。



「――わかった」



 アダムの栗色の瞳をしっかりと見て、わたしは頷く。

 


「やる」



 * * *



 魔法学園敷地内にある図書館はめちゃくちゃ広く、蔵書数は王国一を誇ると言われるくらいに多い。外観はまるでお城のようで、初めて訪れた人はまず間違いなく迷うと断言出来る。


 そして、わたし達はと言うと……。



「――あった。ここだ、閉架図書室」



 だだっ広い図書館の薄暗い隅っこにそこはあった。

 普段利用する時には気にしたことが無かったが、確かに古ぼけた扉に「立入禁止」と看板が吊り下げられている。



「ちょうど誰も居ねーのはよかったけど、なんだこの扉? ドアノブがねぇぞ?」


「あ、ホントだ……」

 

 

 不思議そうにペタペタ扉を触っているアダムの横からわたしも扉に触れる。

 すると感じるのは、何かの力が流れる感覚。

 これはきっと魔法でロックが掛かっているようだ。



「恐らく魔法で開かなくされてるみたいだね……」


「よしっ、ならここは俺に任せろ!」


「え……」



 アダムがそう言うと、彼の制服の胸ポケットからピグくんがよじよじと顔を出す。

 そしてキュッと鳴いたと思ったら、チカッと一瞬辺りが光る。すると扉がギギギと鈍い音を立てながら勝手に開いた。



「開いた!?」


「うおおお!? スゲェ! ホントに開いた!! よしっ行くぞリリス!」


「えっ、う、うん!」



 アダムは褒めてというように頬ずりしてくるピグくんを撫でてやりながら、わたしを急かしてずんずんと閉架図書室に入って行く。

 しかしわたしは、今何故扉が開いたのかで頭がいっぱいだった。

 だってあの魔力の感じ、到底ピグくんの微弱な魔力で開けれるとは思えなかったんだけど……。



「――おい! リリス、早く! すげぇもん見つけたぞ!」


「あ、うん、ごめん!」



 アダムの声にわたしはハッと考えるのを止め、閉架図書室の中へと足を踏み入れる。



「あ、室内は思った以上に狭いのね」


 

 もしかしてさっきのはフェイクで、実はこの先に強力な魔法が仕掛けてあるのかと警戒していたが、特に何もなさそうで拍子抜けする。

 念の為、常に腰から短剣を抜けるよう構えていたのだが、出番は無さそうだ。


 しかし狭いものの開架図書と同様、壁に沿って天井まで大量の本がズラリと並べられており、圧倒される光景だ。この中から目当ての本を探し出すのは途方もなく感じる。



「おいリリス、これだよこれ! なんか怪しくね?」



 キョロキョロと本棚を見渡していると、アダムが部屋の隅にひっそりと置かれている古ぼけた小さな金庫を指差した。



「なんかいかにも大事なもの閉まってありそうじゃね!?」


「確かにそうだけど、さすがに金庫は開けれないんじゃ……」


「頼む、ピグ!」


「キュッ!」



 ――パリッ!


 ピグくんがまたチカッと一瞬光る。

 するとどうしたことか、キィと音を立てて今度は金庫が勝手に開いたのだ。

 これにはわたしもアダムも互いに顔を見合わせた。



「えっ、ええーー!!?」


「うおおぉぉ! ピグスゲェーー!!!」


「いやいやいや! さすがにこれは出来過ぎてるよ! だってここ閉架図書室だよ!? 一般生徒は立ち入り禁止の場所の金庫がこんな簡単に開けられる訳がない! 絶対罠だよこれ!!」



 必死に言うわたしに対してアダムはのん気そうに笑う。



「ははは、リリスは心配し過ぎてだって! とにかく開いたんだから何でもいいじゃねぇか。それより見てみろ、これ絶対当たりだ」



 アダムが金庫の中にあった本を掴んで掲げてみせる。確かに年季が入って表紙が読めなくなった本にぐるぐる巻きでなにやら金色の糸で文字が細かく刺繍された黒いリボンが巻かれていた。



 本当にこれが禁書……?



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