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体育祭 元落ちこぼれvs女帝 13



『さぁ、両者スタート位置につきました!! あとは運命の瞬間を待つのみです!!』



 騒がしい実況を背に受けて、スタートラインにわたしと生徒会長が並ぶ。

 ちなみにルナ達召喚獣組は、フィールドで順番が来るまで待機だ。



「…………」



 スタートに備えて軽く屈伸をしながら、横目で生徒会長の様子を伺う。

 スラリとしたモデルのような立ち姿はたいへん絵になるが、現MVPということで今日の競技には一切参加しておらず、どんな走りをするのかは全くの未知数だ。

 しかしMVPを取るということは、運動神経は確実に良いと見て間違いないだろう。もしかしたらかなりの俊足の持ち主かも知れない……。


 だがそうだとしても、生徒会入りを回避して生徒会長との関りを断つ為には、この勝負には絶対に勝たなければならないのだ。わたしは気持ちを改めて引き締める。



『では、スタートのカウントに入ります!! ぜひ皆様もご唱和ください!!』



 ついに始まりの合図が実況から掛かり、わたし達はそれぞれ態勢を整えて、その時を待つ。



『3、2、1……』



 競技場中が一体となってカウントダウンが始まる。わたしは前に出した右足にグッと力を込めて前方を強く見据えた。



『スタート!!!!』



 ――瞬間、わたしは地面を蹴り飛ばして加速する。


 よしっ! いいスタートが切れた……!!

 風に乗るようにリズミカルに足を運んで、トラック半周を一気に駆け抜けて行く。幸先のいい好スタートに、自然と笑みがこぼれる。



「…………?」



 だが待て、そういえば生徒会長はどこに行ったんだろう……? 

 何故か前にも横にも生徒会長の姿は見当たらない。



「……っ!!?」



 少し考えたのちにチラッと首を後ろに動かして、わたしは思わず二度見した。

 何故なら生徒会長が、まだスタート付近を走っていたからである!!

 想定外の事態に頭が混乱するが、これは実況や観客席も同様だったようで、悲鳴のような声が各所で上がっている。



『おーーっとぉ!? これは波乱の幕開けです!! なんと2年連続MVPを獲得した不動の女帝が、元落ちこぼれに押される展開だーー!!』


 

 え!? 生徒会長って前回だけじゃなく、前々回もMVPだったの!? この足の遅さで!!?

 内心ツッコミたいことが山ほどあるが、だがこれはチャンスなんだと思い直す。


 ――そう、チャンスなのだ。


 生徒会長の足が遅いなら寧ろ好都合! このまま一気に差を拡げる……!!

 わたしは足に力を込めて更に加速し、周回遅れで走る生徒会長を追い抜く。そしてあっと言う間に2周半を走り切って、ルナにリレーを繋げた。



「ルナ! よろしくっ!!」


「任せて!」



 パチンッとハイタッチし、颯爽とルナが走り去って行く。いつもは持ち前の真っ白な羽根で飛んでいることが多いので、ルナの走る姿はレアと言えるだろう。

 わたしはそんな背を見送りながらフィールドで次の順番を待っているのだが、ふと生徒会長の方を見れば、やっと2周を走り終えたというところであった。


 いやいや、さすがに遅すぎじゃない……? もしかして何か企んでる??

 それともすごいのは生徒会長じゃなくて、レオナルドの方とか……?



『ああっ!! エリザベッタ様がようやくレオナルドへとリレーを繋ごうとしている中、まもなくルナが3周を走り切ろうとしています!! これはまさかの勝負ありかーー!!?』



 疑念に考え込んでいた頭を、実況の声でわたしは弾かれたように上げる。するとトラックではルナが早くも4周目に突入し、それもまもなく走り終えるというところであった。

 そしてその跡を生徒会長と交代したレオナルドが猛追しており、やはり今までは生徒会長の穴をレオナルドが埋めてきたのだろうと思われる。だが今回は既に3周分の差がついており、ここから全力疾走しても、もう逆転は不可能だ。


 ――この勝負もらった!!



「リリス!!」


「ルナ!!」



 わたしは勝利を確信し、こちらにどんどん近づいてくるルナに手を振り、そして――……。



「…………あれ?」



 ――ピチピチ、ピチチ。


 唐突にそんな小鳥のさえずりが聞こえてハッと周囲を見渡す。

 すると目の前に広がるのは、一面の緑の草原に雲ひとつない澄み切った青い空。

 そしてそのすぐ側には小さな川も流れ、更には色とりどりの花が咲き乱れており、その上を可憐な蝶が舞い踊っている。



「…………」



 あまりにも浮世離れした美しい光景に呆然としていると、そんなわたしの足元をウサギ達がピョンピョンと通り過ぎて行く。



「ここ……どこ……?」



 競技場でリレーをしていた筈が、綺麗だけどどこか不思議な場所に、何故かわたしは一人で立っていた。



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