体育祭 元落ちこぼれvs女帝 11
「――え、アダムが医務室にですか!?」
障害物競走が終わってからすぐにお昼休憩が始まったので、アダムのことが気になり競技場中を探し回っていたら、意外なところにいることをマグナカール先生に告げられた。
「ええ。体調が優れないようで、医務室で休んでいるそうですよ」
「そんな……。お城が消えた後、どこにも居なくて変だと思ったけど、まさかそんなところに居たなんて……」
マグナカール先生の言葉にわたしは動揺する。
やはりあの時、アダムの様子がおかしかったのは理由があったのだ。わたしを心配していたが、体調が悪いのは寧ろアダムの方だったんじゃないか……!
自分のことばかり気にして、アダムをちゃんと見ていなかったことを後悔する。
「わたしっ、医務室へお見舞いに行って来ます……っ!」
「お待ちなさい! アリスタルフさん!!」
そのまま医務室へと駆け出そうとしたが、しかしマグナカール先生に鋭い声と、更に腕を掴まれたことによって、わたしの足は止まった。
「先生……?」
振り返れば、腕を掴んだのは先生ではなく一緒にアダムを探していたルナであり、その後ろには同じく同行していたアンヌも不安げにわたしを見ている。
「リリス。心配なのは分かるけど、君だって疲労困ぱいでフラフラだったんだ。午後の競技が終わったらすぐに生徒会長とMVPを争うんでしょ? だったら今は少しでも体力を回復させることに専念して、お見舞いは体育祭が終わってからにしなよ」
「わたしもルナくんの言う通りだと思う。アダムくんも心配だけど、まずはリリスちゃんの体調の方を整えないと心配だよ~」
「ルナ、アンヌ……。分かったよ……」
午前中に引き続き二人に心配され、このまま強情を張る訳にもいかず、医務室に行くことは諦めた。
とりあえずお昼ご飯を食べようと促されたので、わたしはそれに頷いてマグナカール先生にお礼を言ってその場を離れようとする。
――しかし、
「ああ、アリスタルフさん、ちょっと」
「?」
またも先生に呼び止められて振り向く、するとそのまま小さく手招きされ近寄ると、ヒソヒソとルナとアンヌに聞こえないように小声でこう伝えられた。
「アリスタルフさん、貴女には前にあの小娘……生徒会長を負かすように言ったけれど、絶対に無理をしてはダメよ」
「え……?」
思いがけないことを言われ、驚いてマグナカール先生の顔を見ると、その表情はいつになく真剣で硬かった。
「彼女が理事長の娘ということは知っていると思うけど、それを嵩にきて学園を私物化しているフシがあってね。教師から見れば目に余る行動も多いのだけれど、何故か生徒達には絶大な人気があって、表立って注意できるのは学園長くらいのものなの。
なのによりによって今日、その学園長が急な理事長の呼び出しで学園にいないのです。学園長の目がない以上、あの小娘は勝つ為に手段を選ばない可能性もある。くれぐれも危険と思えばすぐに逃げなさい」
「ああ、だから今日は学園長の姿が見えなかったんですね。……それにしても、マグナカール先生がわたしを心配してくれるなんてビックリしました」
率直な感想を素直にそのまま伝えれば、マグナカール先生が顔を赤くしてそっぽを向いた。
「べっ……、別に貴女を心配して言った訳じゃないわよ! ただ貴女に何かあればエルンスト様が悲しむし、何より学園長に不在の間の生徒達の安全を守るよう頼まれたからね! 貴女に何かあれば、私の監督責任になってしまうんだもの! ただそれだけよ! 分かった!?」
「は、はい!」
確かに言ったことも本当なのだろうが、顔にはわたしが心配と書いてある。
でも見え見えの嘘に必死な姿を見ていると、指摘するのも可哀想なので、とりあえず頷いておいた。
「さぁ、分かったらさっさと昼ご飯を食べなさい! 〝腹が減っては戦はできぬ〟ですよ!! 無理はするなと言いましたが、私はあの小娘を負かすことを諦めた訳ではありませんからね!」
「あはは、はい」
最後は発破を掛けてきた先生に苦笑しつつも離れてルナ達のところに戻ると、「何言われたの?」と興味津々に聞かれたが、先生の為にも黙っておくことにする。
――この時のわたしは先生の忠告を話半分で聞いていて、お昼ご飯を食べてお腹いっぱいになった頃には言われたこともすっかり忘れてしまっていた。
後にこの先生の心配が、見事に的中してしまうことも知らずに――……。