体育祭 元落ちこぼれvs女帝 10
※後半三人称
真っ白な羽根を羽ばたかせ、ルナは迷いなく城の中をぐんぐんと進んでいく。そんな様子を不思議に思い、わたしは疑問をぶつけた。
「ルナ……なんだかまるでお城の中の構造が分かってるみたいに進むね?」
「みたいじゃなくて、実際そうだもん。このドラゴンがリリスを迎えに行く道すがら、僕に教えてくれたんだ。だから頂上までの道はバッチリだよ」
「ねっ!」と横を飛ぶドラゴンにルナが相槌を打つと、「グオォォン!!」と、同意するようにドラゴンが咆哮する。どうやらルナは想像以上にドラゴンと仲良くなったようだ。
ていうかそのドラゴン、いつまで一緒に来るんだろう……?
「あ! そういえば、他にたくさん居た選手はどうなったんだろうね? 下見ても全然見かけないけど」
「2階に辿り着いてた他のメンツは、みんなドラゴンに苦戦しているみたいだね。どうやらこのドラゴン以外にも大回廊には何匹か放たれているみたい。リリスを迎えに行く途中で見かけたよ」
「そうなんだ……」
つまりわたし達が穴に落とされる直前にルナが言っていた通り、大回廊に引き返せばドラゴンに襲われていたということだ。アダムがあの時戻ろうとしていたことを、ふと思い出す。
アダム……。
あのまま石壁の部屋に残してきてしまったけれど、さっきの様子はなんとなく避けられていた頃の雰囲気と似ているように感じた。
やっぱり無理にでも連れて来た方がよかったんじゃないだろうか?
今更ながらに、アダムを置いてきたことが気がかりになってくる。
「……ねぇ、ルナ」
「――リリス、心配事はこれが終わってからにしなよ。ほら、もうゴールは目前だ」
「え」
言われて視線を上げれば、いつの間にか真っ赤な絨毯が敷かれ、火のついていない燭台に囲まれた豪奢な玉座のあるとても広い部屋に到着する。
ここは……。
「もしかして、玉座の間!?」
「うん、そうだよ。ここに城の頂上に出る仕掛けがあるんだと、このドラゴンは教えてくれた。……頼むよ」
「グオオォォォン!!」
「わぁっ!?」
ルナの言葉が合図となって、ドラゴンが一気に口から火を吹いた。
それにいきなり何をと思ったが、ドラゴンによって全ての燭台に火が灯り、その直後ゴゴゴゴゴゴ……と地鳴りと共に玉座の間の天井が開き、薄暗い城の中に太陽の光が差し込む。
「上が……! 青空が見える!!」
「行こう! リリス!」
「うんっ!!」
わたしを抱えたルナがぐんぐんと上昇して、お城の頂上を目指す。ドラゴンはそんなわたし達を見上げ、まるで送り出すように、「グオォォン!!」と咆哮を上げた。
「――――っ!!」
視界が一気に明るくなり、チカチカして思わず目を瞑る。そして次に目を開けた時に、視界に飛び込んできたのは――……。
『ゴーーーーーール!! 一番手はやっぱりこのコンビ! リリス・アリスタルフと召喚獣ルナだーーーーっ!!!』
薄暗い城から一転、快晴の空の下、城の頂上から見えたのは、実況者の叫びに呼応するように大きく湧いている、観客席にいる大勢の生徒達だった。
『ということで、アリスタルフ選手には1000ポイントを進呈!! 累計で1050ポイント獲得でぶっちぎりのトップ! これはもう午後の競技を含めても逆転不可能なポイントだぁ!! つまりつまり!? ……生徒会長エリザベッタ様への挑戦権をゲットしたのは、リリス・アリスタルフだぁぁぁーーーーっ!!!!』
わたしと生徒会長の一騎打ちが決定し、前から出ていた噂やチラシも合間って、またわっと競技場中が沸く。
「……だってさ、とりあえずよかったね、リリス」
「うん……。なんか気が抜けたかも。お腹空いた。お昼ご飯いっぱい食べたい」
ルナの言葉に頷いて、わたしは安堵の息をつく――その時だった。
突然お城が眩い光に包まれたのは、
「――――っ、え、ええっ!?」
そして気がつけば、頂上にいた筈のわたし達は競技開始前に集まっていた競技場のトラックに立っていた。
それは他の選手達も同様なようで、みんな何が起きたのか分からず、目を丸くしてキョロキョロとしている。
「えええっ!? お城は!? ドラゴンは!? 全部そっくり消えちゃったんだけど!!?」
「全部幻覚魔法だったってことだよ。……城も、ドラゴンも。生徒会長の召喚獣――レオナルドによる、ね」
そう言ってルナは、競技場観客席の最前列にある、現MVPの特別席へと視線を向けた――。
* * *
「グルグルグル……」
「あらあら。予想通りとはいえ、あの城を苦労して準備した身としては、簡単に攻略されてちょっと面白くないわね。……ねぇ? レオナルド」
騒がしい競技場のトラックに背を向けて、ふぅとエリザベッタが溜め息をつけば、その足下で寝そべっていたレオナルドの紅い瞳がゆっくりと閉じられる。
その様を見届けながら、エリザベッタはふんわりと微笑む。
「でもレオナルド、貴方面白いものを見つけたわね。――あのソバカスくん、使えそうだわ」
エリザベッタがご褒美とばかりに喉元をくすぐってやれば、レオナルドが気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。
「うふふ。これからどうなっていくのか、楽しみね」