体育祭 元落ちこぼれvs女帝 5
「ふぅ、まったく……」
まだ赤い顔を冷まそうと手でパタパタと顔を扇ぎ、わたしは観客席の着くと水分補給をして一息つく。
流石に朝から体をずっと動かしていたので疲労を感じるが、もう暫くすればまたすぐに次の種目が始まる。早くトラックへ向かおうと立ち上がれば、ぐっと右腕をルナに掴まれた。
「リリス、大丈夫? 顔色があまり良くないよ。朝からほぼ全部の競技に出ずっぱりだし、心配しなくても僕たちがもう大差をつけてトップなんだから、今は無理せずこのまま休んでいよう」
「え、でも……」
心配そうな顔でルナに言われて戸惑っていると、横で水を飲んでいたアンヌまでもこちらを心配そうに覗き込んでくる。
「リリスちゃん、ルナくんの言う通りだよ~。ずっと一位を取って気も張っているでしょ? いくら体を鍛えてたって少しは休まないと、午後から頑張れなくなっちゃうよ!」
「う、うん……」
確かに二人の言う通り、無理はせずとも現在13種目中10種目に出場して、全て一位を獲得。その結果50ポイント所持しており、現在2位の17ポイントを大きく引き離している状態だった。
これだけ離れていれば、この後行なわれる午前最後の種目、障害物競走には出なくても問題ないだろう。そう頭の中で結論づける。
「分かった。なら障害物競走には出な……」
『うおぉぉぉぉぉお!!! 皆さーん! たった今ビックニュースが入ってきました!! これは大大大チャンスですよぉ~~!!!!』
「障害物競走には出ない」と言おうとしたのだが、突然耳をつんざくようなバカでかい実況にその声がかき消された。
それに若干イラっとしていると、更にこの後とんでもない爆弾が投下される。
『なんとなんと! この後の障害物競走は、生徒会長エリザベッタ・ノーブレ様発案の大チャンス種目です!! ポイントが足りなくてMVPを諦めている皆さん! まだまだ諦めないでください!! 障害物競走で1位の方には破格! 1000ポイント差し上げちゃいま~~す!!!!』
「はぁっっ!!!??」
これには競技場中の者達が湧いた。
「エリザベッタ様最高!!」だの「面白くなってきた!!」だの一気に騒がしい声が聞こえてくる。
対してわたしのテンションはダダ下がりだ。
「リ、リリスちゃん……」
そんなわたしの様子を見て、アンヌがオロオロする。隣のルナもどう反応していいのかと困った表情だ。
あの生徒会長め……。
思わず競技場観客席の最前列にある現MVPの席を見れば、当の生徒会長は涼しい顔をして優雅にオシャレなドリンクを飲んでいる。
本当になんて意地の悪いことを思いつくんだ!
一気に1000ポイントということは、さっきまでの13種目全部ムダだったじゃん!! と、全力でツッコミたくなる。
「――ルナ」
わたしが静かに呼ぶと、ルナはますます顔を歪ませた。言わずともわたしがどうするのか分かったのだろう。困らせるのは本意ではないが、今回だけは許してほしい。
「出るよ、障害物競走」
だってこれはわたしへの戦線布告なのだ。
ならば受けて立ってやる!!