体育祭 元落ちこぼれvs女帝 4
「ひゃ~! ルナくんもすごいけど、何よりリリスちゃん! 足がめちゃくちゃ速いんだね! 召喚士って基本運動は苦手な人が多いからビックリしたよ~」
ペアリレーを終えて一旦観客席に戻る途中、一緒にレースに参加していたアンヌが汗をタオルで拭いながら、目をキラキラさせて言う。
「あはは。わたしの場合は召喚獣がいない期間が長かったから、護身の為に体を鍛えていたからね。それよりもアンヌの召喚獣こそ、普段のんびりしてるイメージだったから、あんなに速いなんて思わなかったよ!」
わたしは振り返って、ボーッとした表情でカポカポ蹄の音を立てながら歩く、アンヌの召喚獣――チーリンを見る。
チーリンは麒麟と呼ばれる伝説の神獣で、4足歩行の体躯に立派な一本角が生えた、虹色の体毛が特徴の不思議な生き物だ。
「えへへ。チーリンはおっとりさんだけど、走るのは大好きなんだよ~」
アンヌがチーリンの背中を撫でてあげれば、ボーっとした表情ながらも気持ち良さそうに目を細めている。ふわふわしたアンヌと同じく、チーリンもどこかふわふわしているので、一緒に並んでいる姿はいつもの倍増しで癒される気がした。
しかしそんなわたしのほっこりした気分は、ルナが背中ぬのしかかってきたことで一気に台無しになる。
「ちょっ、ルナ!? 重いよ! 離れてっ!」
「やだ。僕だってチーリンみたいにリリスに撫でられたいし、褒められたい! せっかく魔法が封じられててストレス溜まってる中で頑張ったのに、リリスってば全く僕を褒めてくれないんだもんー」
「だってそれはどの召喚獣も同じでしょ!!」
ずしっと体重をかけてくるルナから逃れようともがいている最中、ルナの右手首にガッチリ取り付けられている〝魔封じの腕輪〟が視界に入った。
実は体育祭では、魔法の使用は全面的に禁じられている。理由は純粋な身体能力のみで競い合うからだ。
その為、召喚獣には万が一にも魔法を使うことがないように、魔力を封じる腕輪を取り付けることが義務となっている。
しかしやはり、普段当たり前に使っている魔法が封じられるというのは、召喚獣にとってかなりストレスが溜まるようだ。
「可哀想だけど、終わったらすぐ外してあげるから、もうしばらく我慢してね~」
「ムー……」
よしよしとアンヌが宥めるチーリンの前足にも、ルナと同じ魔封じの腕輪がはめられている。
「あーいいなぁ、チーリン。僕もリリスによしよしされたい。優しくされたい」
「あのねぇ……」
ずしっとのしかかっていたルナが、今度は更にわたしにぐりぐりするように頭を突き出してきた。これには流石にわたしも観念して、ルナの真っ白でサラサラな髪を優しく撫でてやる。
「えへへ」
すると途端にさっきまでの不機嫌が嘘のように、ルナは幸せそうに目を細めた。こんなことぐらいでそんな顔をしてくれるのなら、これからはもっと積極的に褒めてあげた方がいいのかなと思う。
「……さっきのペアリレーも他の競技も、ルナじゃなかったら一位は取れなかったよ。ありがとう。魔法使えなくてイヤだろうけど、もう少しわたしに付き合って」
「うん、もちろんだよ。僕はリリスの召喚獣。例え何を封じられていたって、君の為なら頑張れる。……でもそうだなぁ。実はリリスがこれをしてくれたらもっと頑張れるって、とっておきの方法があるんだけど」
「?? 何?」
意味深な言葉にわたしが首を傾げると、ルナは自分の唇をトントンと指差した。
「ここをリリスの唇で撫でてくれたら、僕はもう力がみなぎって超元気に――」
「調子に乗るなーーーーっ!!!」
……後のアンヌの証言によると、わたしの絶叫は競技場中に響き渡り、「真っ赤になったリリスちゃん、リンゴみたいで可愛かったよ」と、有難くないお言葉まで頂いたのだった。