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召喚獣には頼りません 1



 とんでもない自称召喚獣との邂逅からの翌朝、いつも通り登校したわたしは教室に入り、隣の席のアダムに声を掛ける。



「おはよう、アダム」


「おう、おはよーっておい! どした!? お前めちゃくちゃクマ酷えぞ!?」


「ちょっとね……」



 昨夜の出来事が走馬灯のように頭を駆け巡りそうになったので、考えを散らすように息を吐く。



「え、お前……まさか、徹夜で……?」



 そんなわたしの様子をどう解釈したのか、アダムは珍しく神妙な顔をする。



「いや……、そりゃそうだよな。昨日はごめん、リリス! 退学になるかもって不安な時に茶化しちまって!」


「えっ!?」


「あ、そうだ! 詫びに今日の放課後はリリスに付き合ってやるよ! 今日も召喚してみるんだろ?」


「あ、うん。……ありがとう」



 なんかアダムが優しくて怖いが、確かに一人だとテストまで日が無い焦りで空回りしそうだったので申し出は有難い。



「まあそんな固くなるなよ! どうせダメで元々じゃねーか!」


「う、うん……」



 わたしの背中をバシバシ叩き、アダムは笑う。

 たぶん慰めてくれてるのだろうけど、全然慰めになっていない。

 やっぱりアダムは相変わらずみたいだ。


 ――キーンコーン


 と、そこで始業の鐘が鳴った。

 それと同時にマグナカール先生が教室へと入ってくる。



「さあ、皆さん席に着いて! 授業を始めますよ! 特にアリスタルフさん! 貴女はお喋りしてる場合じゃないでしょ!」



 先生は開口一番、アダムとお喋りしていたわたしにそう言ってふんと鼻を鳴らす。すると辺りからは、クスクスとこちらを見て笑う声が聞こえてきた。



「ちっ、相変わらずの嫌味ババァ……」



 アダムが呆れたように毒づく。

 しかし先生の言う通り、わたしは今お尻に火が着いた状態だ。



 ――そう、今のわたしには昨夜のあれそれなんていつまでも気にしてる余裕は無い。



 あんな自称召喚獣に頼らなくたって、わたしは絶対退学にはならないんだから!!



 * * *



「我が声に応えよ! 神の御使いよ!!」



 そしてあっと言う間に放課後。

 人気(ひとけ)の無い校舎裏でアダム立会いの下、今日も元気に召喚を試みるが、絶賛絶不調中である。



「うわー! 30回やってもダメだー!! アダム、なんか召喚のコツとかって無いのー!?」


「んー……。コツって言ってもなぁ。なんていうか、元々自分に対応する召喚獣が存在していて、それを引っ張り出す感覚って言うとわかる? 召喚獣を呼ぶんだよ」


「うー……。呼ぶ、引っ張り出す……」



 アダムの言う自分に対応する召喚獣を引っ張り出すという感覚は、わたしには一度も感じたことの無いものだ。

 それってやっぱりわたしに対応する召喚獣は居ないってことなのだろうか……。



『また今日みたいに君が呼んでよ。そしたら僕はいつでも君のところに駆けつけてあげる』



 ――って、何思い出してるのわたし!!



 ブンブンと邪念を払うように頭を振る。

 違う違う! あんな怪しい自称召喚獣、呼ぶ訳がない!



「――おい! リリス!」


「ふぁい!?」


「? なんださっきから、慌しいヤツだな。今から実践してやるからよく見とけよ」


「あ、うん、ごめん」



 いけない。アダムが折角付き合ってくれてるのに、余計なことばかり考えてる。集中しなくちゃ。

 気を取り直して、詠唱を唱えるアダムの後ろ姿を見つめる。



「我が声に応えよ! 神の御使いよ!!」



 アダムが詠唱した瞬間、チカッと辺りが光る。

 そして、現れたのは……。



「キュキュ! キュー!」


「かっ、かわいいぃぃ~!!」



 わたしの黄色い声援に応えるように、また「キュ!」とひと鳴きする愛くるしい召喚獣。

 丸っこくて長い鼻に、つぶらな瞳。それに背中に背負ったトゲトゲの針。


 ――そう、アダムの召喚獣はハリネズミ型なのである。



「ピグくん、久しぶりだねぇ~。ああ~、モフモフ。堪らん」



 一旦休憩と木陰にそれぞれ座り、わたしはアダムの肩に乗るハリネズミのピグくんを撫で撫でさせてもらう。もっと撫でてと言わんばかりにわたしの手に小さな頭をスリスリ擦り付ける仕草が可愛過ぎて、顔がデロデロになってる自覚はある。

 そんなわたしを見てアダムは呆れたように笑った。



「ハリネズミの召喚獣を見てこんなに喜ぶ奴なんて、世界でもお前くらいだろうな。世間じゃネズミは最底辺の召喚獣だ」


「こんなに可愛いのに。最底辺なんて失礼しちゃうわ、ねーピグくん!」


「キュ?」



 なぁに? と言わんばかりにピグくんが小首を傾げる。可愛い過ぎて辛い。


 召喚獣を召喚すら出来ないわたしには無縁の話だけど、召喚獣にも強さのランクというものがある。強い召喚獣になればなるほど希少な魔法を持ってるらしく、使役する召喚士も同時に地位が高くなる。


 故に強力な召喚獣を代々召喚するアリスタルフ家は名家と呼ばれるのだ。

 つまりは出世は召喚獣次第。実に魔法王国らしい、魔法に重きを置いた権威主義な制度である。

 ……別に貶してはいない。率直な感想だ。



「……なぁ、リリスさー」


「うん?」



 わたしはピグくんとじゃれつきながらアダムに返事をする。



「俺、お前が卒業テストに合格する起死回生の方法を思いついたんだけど」



 アダムもそんなわたしを見ながらいつもの調子で話す。



「え? どんな?」


 

 思いがけないことを言われ、ぱっとアダムの方を振り向けば、存外真面目な顔をしたアダムがいつもの調子で爆弾を落とした。



「――禁術だよ。禁術ならリリスでも召喚獣を召喚出来るんじゃね?」



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