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体育祭 元落ちこぼれvs女帝 2



 そしてあっという間に日は進み、ついに体育祭当日となった。


 魔法学園の広大な敷地内には、卒業テストの時に使用されたコロッセオとは別に、巨大な陸上競技場も存在する。

 体育祭ではこの陸上競技場を使用して、高等部の全学年が完全個人戦で今年のMVPを目標にポイントを競い合うのだ。


 だかしかし――。



「勝つのはオレだー! やるぞーっ!!」


「いいや俺だね! 今年は絶対にMVP取るぞ!!」


「……ねぇ、アンヌ。なんかみんなから凄まじいというか、異様な熱気を感じるんだけど、高等部の体育祭って毎年こんな感じなの?」



 今は競技場のフィールドにて生徒達はみんな準備運動をしている最中なのだが、周囲のあまりの熱気に、思わずわたしは隣で一緒に屈伸しているアンヌにヒソヒソと耳打ちする。

 するとアンヌは、「ああ~」と言って原因を教えてくれた。



「ううん、去年見学した時は全然違ったよ〜。でも今年は生徒会からMVPへの賞品が類を見ない豪華さだから、みんなめちゃくちゃ気合い入ってるんだよね」


「生徒会からの賞品?? それってどんな?」


「えっとね~」



 アンヌが教えてくれた賞品の数々は以下の通りだ。


・S組生以外ならS組へ編入決定

・授業5回までならサボれる権利

・学食卒業するまで無料パスポート

・王都人気スイーツ店無料券

・王都人気娯楽施設無料券……etc.



「なるほど、これは確かに前代未聞の大盤振る舞いかも。ならこの異常な熱気も理解できるよ」



 ……そして同時に、生徒会長はわたしがMVPを取るのを全力で阻止しにくるつもりだということも理解できた。



「…………」



 わたしは観客席の最前列にある、特別に設えられた現MVPの為の席を見上げる。

 そこには以前温室で見た玉座のような大きな朱色のソファーが置かれて、その玉座に足を組んで優雅に座る生徒会長が横に寝そべる彼女の召喚獣――有翼の獅子レオナルドの巨大な頭を優しく撫でていた。


 わたしの視線に気づいたのか、生徒会長もこちらを見てうっすらと笑う。その笑みからは、今彼女が何を企んでいるのかは全く読めない。



「けど何が来たって、絶対負けないんだから……!」



 わたしは生徒会長から視線を逸らし、決意を新たにぐっと拳を握り締める。


 ――と、



「リリスーー!! 僕もう準備運動疲れちゃったー! 休みたーい!」


「こらー!! ルナさん! 今は走り込みをしているのですから、飛んではいけませんよー!!」



 いきなり空から現れたルナにぎゅっと抱きつかれたと思ったら、それを追ってマグナカール先生がドタバタと鬼の形相でこちらに向かってくるのが見えた。



「ちょっとルナ! 今は召喚獣も準備運動中の筈でしょ? マグナカール先生の言う事ちゃんと聞いて、真面目にやらなきゃダメじゃん」


「えー! でも僕、リリスも見てないのに真面目に頑張れないって言うか……。あっ! だったらリリスも一緒にこっちで準備運動しようよ! なら僕頑張る!」


「えぇー……?」


「全く……ゼェ、ゼェ……、ルナさんは流石アリスタルフさんの召喚獣ですね。……ゼェ、自由奔放なところが召喚士そっくり……ゼェ、ゼェ……」


「いや先生、流石にわたしもここまで自由じゃないですよ。ていうか息大丈夫ですか? 少し休んだ方が……」



 ゼェゼェと息を切らせたマグナカール先生の背中を摩りながら、わたしは競技場のトラックを走る動物型や猛禽型等、大小様々な召喚獣達に目線を向けた。


 魔法学園の体育祭は、世間一般が思い描くような体育祭とは少々内容が異なっており、全ての種目において召喚士と召喚獣がペアで参加することが決まりとなっている。

 故に今ルナは他の召喚獣達と一緒に準備運動中なのだが……。



「ところでリリスちゃんは、どの種目に出るつもりなの〜?」


「ああ、そういえば徒競走に障害物競走……。なんか色々種目があるみたいだね」



 わたしはジャージのポケットから、種目が書かれたしおりを取り出す。

 どの種目にエントリーするのかは完全に個人の自由だが、MVPを目指すのであれば、より多くの種目で高順位を勝ち取り、ポイントを稼ぐことが必須である。ならばわたしは、出来る限り全ての種目に出た方が良さそうだ。


 ちなみに一番多くポイントを稼いだ者が自動的に今年のMVPとなる訳ではなく、あくまでも現MVP ――つまり生徒会長への挑戦権を獲得出来るというだけである。

 この生徒会長との一騎打ちで見事勝つことが出来れば、晴れて今年のMVPとなるのだ。

 


「さぁ! アリスタルフさんにミィシェーレさんも! お喋りしてないで、さっさと準備運動を再開なさい! ルナさんも! 早く準備運動の続きを始めますよ!」


「嫌だぁ! 僕はリリスと一緒がいい! リリスーっ!!」



 息切れから復活したマグナカール先生に首根っこを掴まれて、トラックへとズルズルと連行されるルナを、わたしは苦笑して見送る。



「ルナくん、あんな調子で大丈夫かな〜? ほら、リリスちゃんも知ってるでしょ? 体育祭では召喚獣は――……」


「ああ……」




 アンヌの言わんとすることを悟り、わたしは少し考える。確かに不安要素はあるが、でもきっとルナなら大丈夫だ。そう信じてる。

 わたしはパンっと両頬を軽く叩いて、気合いを入れ直す。


 心を整えて、精神統一。


 

 さぁ、体育祭がいよいよ始まる――。



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