表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/131

体育祭 元落ちこぼれvs女帝 1



 ――高等部に入学して丸一ヶ月。

 月も変わって入学時のウキウキそわそわした空気も薄れてきた今日この頃。

 朝、わたしとルナがいつものように1年S組の教室に着くなり怒号が響き渡った。



「聞きましたよアリスタルフさん!! あなた卒業テストで騒動を巻き起こしただけでは飽き足らず、今度は生徒会長と体育祭で争うんですってーー!!!?」



 まだ朝礼前だというのに何故か怒気を帯びたマグナカール先生が教室に現れ、バンッ!! とわたしの机に何かのチラシを叩きつけるようにして置かれた。

 それを手に取れば、わたしと生徒会長のイラストの真ん中に『来たる体育祭にて、元落ちこぼれの召喚士が前年度MVP女帝エリザベッタ様に挑む!!』と、デカデカと煽りがつけられている。



「まさかこんなチラシが作られるなんて……」



 これもあの生徒会長の指示なのだろうか? ていうか生徒会長が去年のMVPなのね。

 わたしは艶やかな長い銀の巻き髪と大きな薄紫の瞳を持ち、巨大な銀色に輝く有翼の獅子を従えていた女生徒――エリザベッタ・ノーブレを思い浮かべる。


 先月のお茶会にて〝ゲーム〟を生徒会長から持ちかけられ、勝てば金輪際わたしには関わらないことを条件に受けたのは記憶に新しい。

 しかしこんなチラシが撒かれ、先生の耳にまで入ることになろうとは……。とことん大々的にしてやろうという意図が透けて見えて頭痛がしてくる。



「……落ち着いてください、先生。ただの先輩後輩の交流の一環ですよ。体育祭で親睦を深めよう的な」



「ほう? 生徒達はあなたが生徒会長に戦線布告をしただの、生徒会長を敵に回しただのと不穏なことを言っていますが、それは全てデマだと?」


「事実無根です。ていうか卒業テストの件も不可抗力ですし」



 キッパリ言い切れば、一応わたしの説明に納得したのか、マグナカール先生が怒気を鎮めてフゥッと溜息をついた。



「まったく。あなたという生徒はやっと召喚獣を召喚出来たかと思えば、また新たな騒動を起こして……。しかも高等部でも私があなたの担任になるなんて、本当になんて因果なの」



 ――そうなのだ。


 元々中等部の教師だったマグナカール先生が今年度からは高等部へ配置換えとなり、しかも1年S組の担任になったのである。

 なんの因果かとはこちらの台詞だと言いたい。



「なになに? 何書いてあるのそれ? 僕にも見せてよ」


「あっ!?」



 ルナに持っていたチラシを抜き取られ慌てて振り返ると、ちょうど今登校してきたばかりのアンヌも一緒にチラシを覗き込んでいた。



「ふーん、また随分と張り切ったチラシだね。実物のリリスはこの絵よりもっと可愛いけど」


「リリスちゃんおはよう~。このチラシ、今生徒会の人が学園中あちこちに貼ってたよ! お茶会に誘われた上に、エリザベッタ様に直接対決を挑むなんて……。やっぱりリリスちゃんはすごいっ!! わたし、応援してるからね~!!」


「あはは……おはよう。それからありがと、アンヌ」



 キラキラとした目で見つめられ、思わず拍子抜けする。正直生徒会長に憧れているアンヌにはどんな反応をされるのかと、少し怖かったんだけど……。



「そうですよ!! アリスタルフさん!!!」


「ひぇっ!?」



 するとさっきまでブツブツと己の不幸を嘆いていたマグナカール先生が急に拳を握りしめて絶叫したので、わたしの心臓は止まりそうになる。



「この際なんでこうなったかは不問にします!! だからあの女帝気取りの小娘なんぞ負かして、エルンスト様もドン引きするような盛大な吠え面かかせておやりなさい!!!!」



 ビシィッ! とわたしに指を突き付けてそう高らかに叫ぶ先生。

 しかし、はて? なんでここで兄様の名前が??

 そんなわたしの心の声を読んだかのように、アンヌが教えてくれた。



「エリザベッタ様のお父様……。つまりこの魔法学園の理事長がエルンスト様のことをすごく気に入っているらしくて、エリザベッタ様の婚約者にどうかってエルンスト様に打診している噂が随分前からあるんだよ~。実際にお見合いもしたことあるとかって」


「えええっ!!?」



 あの二人ってそうだったんだ!? 意外なところで繋がりがあった兄様と生徒会長に驚く。と、同時にマグナカール先生が何故こんなにも熱くなっているのかの理由が分かり、つい笑ってしまう。

 そっか、マグナカール先生、兄様のこと大好きだもんね。

 なんとも(よこしま)な気持ちが多分に含まれた応援だが、不思議と嫌な気はしなかった。



「お茶会の時はゲームに乗らなきゃ収まらない状況だったけど、大丈夫リリス? 引き受けたこと後悔してない? 不安になってない?」



 すると不意にルナがそんなことをわたしに問う。

 でも質問してくるわりには、ルナの顔はわたしの答えなんて知ってるって顔をしていた。

 それにわたしはクスリと笑って、卒業テストの時のことを思い返す。


 みんなが当たり前に召喚獣がいる中で、いないのはわたしだけ。学園長達には精一杯虚勢を張っていたけど、本当はすごく心細くて不安で不安で仕方なかった。


 ――でも、今は違うって胸を張って言える。



「ううん、全然!!」



 だから後悔も不安もあるわけなんてない。


 だって今のわたしには、ルナがいてくれるんだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ