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変わる世界 14

※アダム視点



「はー……、何やってんだろ、俺」



 校門の壁に寄りかかり、沈んでいく夕陽を見ながら俺は溜息をつく。


 ――あの後、リリスを無理矢理エリザベッタ様のお茶会に行かせたものの、あいつの沈んだ声や別れ際の寂しそうな顔がチラチラ頭を過ぎり、とてもじゃないがこのまま寮に帰る気分じゃなかった。


 確かに俺はリリスがルナという上位召喚獣を手に入れて以降、なんとなく距離を感じてあいつを避けていたのは事実だ。

 更に避ける俺を気にして頻繁に話し掛けてきたり、昼メシに誘ってくるのを見て、こいつにはまだ俺が必要なんだと、最低な方法でリリスの気持ちを測っていたことも認めよう。


 しかし誓って俺には、リリスを傷つける意図なんかなかったんだ。


 あいつはとことんお人好しなヤツで、他人よりも先に自分を責めるどうしようもないバカだった。どうせ今頃も自分を責めているんだろうというのは、長い付き合いで考えなくとも分かってる。


 だから俺はこうしてリリスを待っていてやるのだ。そして素直に謝ろう。ちょっと意地になっていたのだ――と。



 ボーーーン、ボーーーン……。



 王都の時計塔の鐘の音がここまで聞こえる。無意識に音の数を数えれば、6回だ。

 つまり今は夕方の6時。リリス達がエリザベッタ様に着いて行ってちょうど30分経つ。

 お茶会ならば最低1時間は掛かるだろうから、あと30分は待っていなければならない。下校する生徒達が校門の壁に寄りかかったまま微動だにしない俺をジロジロと見てくるが、心を無にしてやり過ごす。


 だが客観的に見るとこの状況……。もしかしなくても待ち合わせを忘れられた可哀想なヤツか、誰かを待ち伏せている怪しいヤツに見えるんじゃないのか……!?


 一度そう思うと最早そうとしか考えられなくなるのだから、人間は不思議だ。人が目の前を通り過ぎる度に平常心じゃいられなくなり、悪い方向に考えが向く。


 このまま待っててリリスに会えたとしても、待ち伏せしてたと思われて引かれるかも知れない。それに案外リリスは楽しくお茶会をしている可能性もある。

 そもそも今のあいつは一人じゃない。あのムカつく召喚獣が、ずっとリリスの隣にいるのだ。


 俺が慰めなくても、あいつの涙を拭ってやれる存在が、もう傍にいる――……。



「……帰るか」



 なんだか無性に惨めな気持ちになって、俺が校門の壁から背を浮かせた、


 ――その時だった。



「アダムーーーーーーーー!!!!!」



 突然上から恐ろしくでかいリリスの声が聞こえ、空耳かと思って空を見上げて後悔した。

 なんとリリスを横抱きにして羽根を広げたルナが、猛スピードでこちらに突っ込んできたのである!!



「うわーーーーーー!!!?」



 間一髪、俺の真横にルナの両足がズザザーーッ!! と轟音を上げながら着陸し、砂埃がもうもうと立ち上った。

 あまりの出来事に俺だけじゃなく、周りのやつらもア然としている。



「よかったぁ……。アダムまだ帰ってなかったんだね」



 まだ今の余韻でバクバクと心拍数の上がっている俺とは対照的に、ルナから降りたリリスはほっとしたようにへにゃりと眉を下げた。



「ま、まあ用事があったからな。……それよりお茶会はどうしたんだ? やけに終わるの早くね? まさかなんかやらかして追い出されたのか?」


「んーなんか生徒会に入りを賭けて生徒会長と体育祭で争うことにはなったけど、とりあえずちゃんと話してから出てきたからやらかしてはいないよ。……多分」


「は……はあああああああああ!!?」



 ペロッと落とされた爆弾にまたも俺は驚愕した。



「生徒会入り!? しかも体育祭でエリザベッタ様と争うって、正気かよ……!!?」



 ダメだ、情報が多過ぎて理解が追いつかねぇ!!!



「それにお茶会よりも一刻も早く、アダムに謝りたかったから……」



 オーバーヒートしそうな俺の頭に、そんなリリスの声が響く。ハッと顔を上げれば、リリスが言い辛そうに口をもごもごとさせている。



「アダムごめんね。わたしアダムの気持ち考えないで、自分が一緒にいたいからってアダムに無理させてた。もう我が儘言ったりしないから! 無理に誘ったりもしない! だから……っ、だからずっと友達でいて……っ!!」



 ガバッと頭を下げられて、俺が謝るつもりだったのにとか、こういう時にずっと友達ってフレーズはねーだろとか色々思うことはあるが、全部含めてこいつらしいと思うんだから、俺も相当末期だ。


 俺は溜息をついて、リリスの頭をぐしゃぐしゃに撫でてやる。



「いーよ謝んな。お前はお前のままでいいんだから、もう誘わないとか言うな。――それよりほら、行くぞ」


「え? 行くって??」


「決まってんだろ、アイス食いに行くって約束したじゃねーか。俺と行きたいんだろ?」


「…………うん!」



 ぐちゃっとした頭を手櫛で直していたリリスが俺の言葉を聞いた瞬間、まるで花が咲くように笑う。

 そうだ。リリスにはこの顔が一番よく似合う。そう思って内心顔を綻ばせていると、ぐう~となんとも間抜けな音がリリスの腹からした。



「な、なんか安心したらお腹空いてきちゃった……」



 あははと恥ずかしそうに笑うリリスに、俺は疑問に思う。



「お茶会だったんだろ? 少しはなんか食ったんじゃねーのか?」


「アダムに嫌われたって落ち込んでた直後だよ? 食欲なんてある訳ないじゃん。結局お茶もお菓子もなんにも食べなかった」


「ふーん……」



 そう言われれば、俺の機嫌がたちまち良くなっていくのを自分でも感じる。我ながらなんとも現金なヤツだ。



「よし、じゃあ今日は俺が奢ってやるよ! トリプルでもスペシャルでも、なんでも好きなの頼め!」


「ええ!? 本当!?」


「わーい! やったねリリス!」


「いや、お前には言ってねーし!!」



 ルナのヤツさっきまで大人しくしてたかと思えば、ちゃっかりリリスに抱きついて、何味を食べるかなどとリリスといちゃいちゃ話していやがる。

 けど、今は気分が良いので見逃してやろうと俺は笑った。



 リリスを渦巻く世界は確かに変わったのかも知れない。でも、きっと変わらないものだってある。



 例えば、俺とリリスの関係とか……なんてな。 




=変わる世界・了=



次回『体育祭 元落ちこぼれvs女帝』

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