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変わる世界 13

※後半三人称



「ゲーム? ……一体どんなゲームですか?」



 突然よく分からないことを提案され、わたしが胡乱な目で見ると、生徒会長はティーカップを持ち上げ不敵な笑みを作った。



「そうねぇ、来月高等部で体育祭が行われるのをアリスタルフさんはご存知?」


「体育祭……。はぁ、まあ知ってますが……」



 入学初日に学校行事の説明は受けていたし、それに高等部の体育祭はまだまだ記憶に新しいあの中等部の卒業テスト並みに大規模に行われる知らない者はいないくらい有名な行事である。

 そんな大勢が集まる体育祭を使って何をしようというのか……。なんだか嫌な予感しかしない。



「その体育祭で貴女とわたくしがMVPを賭けて競うというのはどうかしら? わたくしを負かし、貴女が見事MVPを勝ち取ったなら、金輪際わたくしは貴女に関わらないことを誓うわ。その代わりわたくしがMVPを取ったならば、貴女にはルナさん共々生徒会に入っていただく」


「……ゲーム自体をお断りすることは?」


「もちろんご自由に。ただし、貴女に生徒会に入っていただく手段はいくらでもあるということはお忘れにならないで」


「…………」



 それはつまり今断ったとしても無駄ということか。ならばこのゲームを受けた方が〝MVPを取る〟というルールも明確な分、得策なのかも知れない。

 わたしは溜め息をひとつつき、そして顔を上げて生徒会長を真っ直ぐに見やる。



「分かりました、そのゲーム受けます。でもわたしが勝ったら金輪際関わらないという約束、絶対に守ってくださいね」


「ええ、もちろん。わたくし、嘘はつかないもの。うふふ、受けていただけて嬉しいわ。でも貴女ってつくづく不思議な人ね。生徒会に入ることは高等部生にとって憧れ……、メリットしかないですのに。かの王宮付召喚士になることも夢ではなくてよ。貴女のお兄様、エルンスト・アリスタルフ様も高等部の生徒会長を務めていらしたのはご存知?」


「え」



 兄様が生徒会長だったのは初耳だが、確かにらしいし特に驚きはない。それよりもメリットと言われたことの方が具体的に何が良いのかわたしにはピンとこなかった。

 そう思っていたのが顔に出てたらしい。生徒会長がわたしを諭すように言う。



「ねぇアリスタルフさん、同じ上位召喚獣を持つ身としてひとつ忠告しておくわ。人というのは損得で付き合うものなのよ。メリットのない相手に付き合うのはただのデメリットでしかない。さっき一緒にいたソバカスの彼、さっさと縁を切ることをオススメするわ」



 アダムのことを言われたのだとすぐに察し、生徒会長を睨む。



「それは……、生徒会長の言う〝メリットがないから〟と、言いたいのでしょうか?」


「ええ、そうよ。この国では持つ召喚獣の良し悪しで将来までも決まる。格差は嫉妬に変わり、いずれ憎悪になる。関わり続ければお互いを傷つけ合うだけよ」


「…………」



 確かに生徒会長の言ってることは一理あると思う。現に先ほどわたしは、中等部の頃には無かったアダムとの壁を痛感することになった。

 生徒会長の言う通り、このままアダムと関わり続けるということは、アダムを苦しめるだけなのかも知れない。


 でも、それでもわたしは――……。



「わたしはアダムの友達です!! 傷つけ合ったって仲直りすればいいし、壁が出来たなら何度だって壊壊せばいい!! メリットとかデメリットなんて関係ない! わたしは絶対にアダムと友達でいることを諦めたりしません!!」



 思いっきり叫んだら、居ても立っても居らず勢いよく席を立つ。

 それにまた左右に座る生徒達がざわついたが、別にどう思われようが構わない。

 だってわたしにとって大事なのは、お茶会に参加してメリットだけを考えた付き合いをすることではないのだから……!



「あら、もうお帰りになるのかしら?」



 すると生徒会長がそう(うそぶ)くので、わたしは胸を張って言った。



「はい、友達を追いかけないといけないので!!」



 * * *



 バタバタと騒がしく温室を出て行くリリスを気にした様子も無く、エリザベッタは紅茶を一口飲み、目の前に座る純白の羽根の生えた美しい少年に目線をやった。



「彼女にはああ言ったけれど、わたくしが欲しいのは貴方だけ。どうかしら? ゲームなどまどろっこしいことは経ずとも、わたくしのものになる気はなくて?」



 冗談とも本気ともとれる曖昧な微笑み。

 ルナはスッと椅子から立ち上がり、そんなエリザベッタに冷めた視線を向ける。



「お断りだよ。君を見てると、僕が〝世界で一番大嫌いなヤツ〟を思い出すからね」



 吐き捨てるように言い残し、彼はエリザベッタに背を向ける。

 そしてほどなく温室の扉が閉まる音を聞いて、エリザベッタの口から自然と笑みが溢れた。



「グルル……」


「あらあらレオナルド、貴方もお疲れ様。ルナさんには見破られてしまったけれど、やはり貴方が作る思念体は素晴らしいわ」


「クゥーン」



 エリザベッタはティーカップを持っていない方の手を伸ばすと、玉座の背後に大人しく寝そべっていた巨大な銀色に輝く有翼の獅子が、甘えるようにその手に鼻をこすりつける。



「うふふ。さて、〝世界で一番大嫌いなヤツ〟とは一体誰のことを言っているのやら。もしもわたくしの想像通りであるならば、……その時は」



 カチャンとソーサーにティーカップを打ち付ける音が温室に響く。



「――さあ、皆さん。いよいよ生徒会の大仕事の始まりですわよ」



 ぐるりと左右に座る生徒会の腕章をつけた生徒達を見渡して、エリザベッタは美しく笑う。



「きっと素敵な体育祭にしてみせましょうね」



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