変わる世界 12
「――ねぇ。あまり適当なことを言って、リリスを虐めないでもらいたいんだけど」
わたしの色んなことが駆け巡っていた頭の中が、ルナの怒気の含んだ声で一気に現実に引き戻される。
見ればルナはまるでむせ返ってしまうような恐ろしい魔力を身に纏って生徒会長を睨みつけていた。これにはわたし達の話をじっと聞いていただけの生徒達の顔色も悪い。
しかしそんな状況の中で、生徒会長だが唯一気にした様子もなく、寧ろ嬉しそうにルナを見てコロコロと笑う。
「あら、真実神は白を愛し、黒を嫌悪している。それは貴方もよく知っているのではなくて?」
「…………」
「うふふ。それにしても近くで見れば見るほど貴方は素敵ね。その真っ白な髪、白金の瞳。今まで見てきたどんな召喚獣よりも神に近い光彩……。貴方が居れば、わたくしの神の楽園は完成するわ」
そう言って生徒会長の細い指がルナへとゆっくり伸びていく。
しかしルナはその迫る手を見ても微動だにせず、焦ったのはわたしの方だった。
「あのっ……! 質問ばかりで申し訳ありませんが、〝神の楽園〟とは一体なんなんでしょうか? 先ほど生徒会長の思念体も言っていましたが……」
叫ぶようにして言ったわたし声に、生徒会長の手はピタリと止まる。そして生徒会長はまた一瞬考えるような仕草をした後、伸ばした手を引っ込めて、その美しい銀髪をかき上げた。
「そうね。神の楽園とは、ある神が創造した世界のこと。――わたくしは幼い頃より神の声を聞くことが出来るの」
「え……?」
神の声を聞く……? そんなことにわかには信じ難いが、生徒会長が神の愛し子であるという神託に関係があるのだろうか?
「神は神の楽園を本当に愛していたわ。全てが真白い、尊くとても美しい楽園。そして神は言ったの。今は滅びた神の楽園を地上に甦らせることこそが、わたくしの使命だと」
「滅びた? それでこんな温室を……?」
何故神が滅びた神の楽園を地上に甦らせようとしているのかは気になるが、しかし今はそれ以上に気になることがあった。
さっき生徒会長はなんと言っていた?
そうだ、〝ルナがいれば神の楽園は完成する〟と言ったのだ――……。
「――傲慢だね。神の代理人にでもなったつもり?」
「ルナ……?」
「ああ、怖がらせてごめんねリリス。ちょっと今あり得ないくらいムカついてて、魔力のコントロール出来てなかった」
わたし達が話す間も生徒会長をじっと睨んでいたルナが、ぞっとするほど冷たい声を出す。それに思わずわたしが名前を呼べば、ルナは安心させるようにこちらを見て微笑んだ。
「うふふ、本当に妬けるくらい仲がよろしいこと。神の代理人……。そうね、どう捉えてもらっても構わなくってよ。わたくしはあくまでも、わたくしの使命を全うするだけ」
そう言って生徒会長は言葉を切り、机の上にあるミルクポットを右手で優雅につまみ上げる。
「――時にアリスタルフさん、貴女生徒会に入る気はおあり?」
「全くありません」
食い気味に答えれば、左右に座る生徒達から非難がましい声がさざめく。しかしそれを静止するように生徒会長が左手を軽く振れば、一瞬で元の静寂に包まれた。
「貴方たち、はしたなくってよ。生徒会たる者、いついかなる時も冷静でなくては。お見苦しいところを見せてごめんなさいね、アリスタルフさん。でも貴女なら絶対にそう言うと思っていたわ」
生徒会長は楽しそうに笑い、紅茶の注がれたティーカップにミルクポットを注いでティースプーンでかき混ぜる。
「でしたら生徒会入りを賭けてわたくしとゲームはいかが?」
「ゲーム?」
「ええ、ゲーム」
突然よく分からなくことを言い出した生徒会長をわたしは胡乱な目で見つめる。
するとその視線を受けて、生徒会長はティーカップを持ち上げ不敵な笑みを作った。