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落ちこぼれの召喚士 3



 ――夜に屋上からヤケになって叫んでいたら、目の前に空を飛ぶ男の子が現れた。

 何を言ってるか分からないだろうが、事実である。



「ねぇねぇ、さっき言ってたことってホント? だったら僕がなるよ」



 パタパタと真っ白な羽根を羽ばたかせ、突然現れた見た目同い年くらいの男の子に急にずいっと距離を詰められて、わたしは激しく狼狽える。


 気配がまるで感じなかったなんて……!?

 慌ててわたしは、いつも自衛の為に腰に差して持ち歩いている短剣を抜いて構えた。

 するとそれを見た男の子が、あわあわと手を振る。



「わーわー! 危ないことはナシ! 僕は君に危害なんて加えないんだから、そんな物騒なものは早く仕舞って!」


「……信用出来ないわ。ていうか貴方誰!?」


「誰って酷いなー。君が呼んだんでしょ? 召喚獣だよ。しょーかんじゅー」


「は、はあぁっ!!?」



 しょ、召喚獣?? いやいや! あり得ない。羽根は生えてるものの、どっからどう見ても姿は人間だ。

 人間の姿をした召喚獣なんて、少なくともわたしは見たことも聞いたことも無い。



「……貴方が召喚獣ですって?」


「そうだよ。君の熱〜い口説き文句に誘われてここまで来たんだ。僕を君の召喚獣にしてよ」


「…………」



 ……話が胡散臭過ぎる。



「断るわ」


「うんうん。これからよろしくね……って、ええ!?」


「召喚獣って普通召喚して顕現するものでしょ? こんなとこフラついてる召喚獣なんて聞いたことないわ。怪し過ぎるのよ」



 そうなのだ。召喚獣とは神の御使いと言われる通り、詳しくは不明だが、人間に召喚される時以外は神の住まう天上を住処にしているとされる。

 逆に地上を住処にしているのは魔獣という、召喚獣と違い理性を持たない化け物達だ。

 ということはこの自称召喚獣もどちらかというと、魔獣なのでは? と思うのだが、しかし人語を話す魔獣というのも見たことも聞いたことも無い。


 わたしが短剣を構えたまま胡乱げに男の子を見つめると、彼は腕を組んで小首を傾げた。



「うーん、結構痛いとこを突くなぁ。……でもさ、この話って君にとっても悪い話じゃないんじゃない?」


「……何が?」


「召喚獣。居なくて困ってたんじゃないの?」


「っ!!!?」



 まるでわたしのことを知っているかのような口振りに、わたしはますます警戒を強め、この自称召喚獣を睨みつける。

 すると彼は困ったように眉を下げた。



「あれ? もしかして当たっちゃった? 必死な様子だったからそうかなぁ? って、かなりテキトーに言ったんだけど……」


「え……?」



 つまりわたし、カマを掛けられたってこと……?


 嘘か本当か分からない言動に頭が混乱する。

 それにこのまま問答してたら、上手く丸め込まれそうな危機感を感じた。とにかくさっさと話を切り上げてお引き取り願おう。



「ねぇ、なんで僕じゃダメなの? 僕スッゴイ強いし、人型の召喚獣なんて唯一無二だから、君は有名人になれるよ? 見た目だってゴツいドラゴンよりよっぽど女の子受けはいいと思うんだけどなー……」


「…………」



 確かに彼の見た目は100人が見たら100人が美しいと答える容姿をしている。

 月の光を弾いて煌めく白い髪に、白金の瞳、滑らかそうな色白の肌。着ている神官のような衣も真っ白で、純白の羽根も相まって正に現実離れした美しさだ。


 そんな彼が可愛らしく小首を傾げてこちらを見つめて、「僕を君の召喚獣にして?」 と囁けば、頷かない人間はいないと断言出来る破壊力だろう。


 ……現にわたしも一瞬頷きかけた。理性フル動員で堪えたけど。


 そんな(かたく)ななわたしの様子を見てついに諦めたのか、男の子はわたしから離れフワリと舞い上がる。

 彼の姿は背後の月に照らされてキラキラと輝いており、その神秘的な姿に思わず息を呑む。



「うーん、仕方ない。今日のところはいい返事が貰えそうに無いし、諦めるよ」


「……今日のところはって、まさかまた来る気?」



 短剣を仕舞って呆れたように言えば、男の子はふふっと不敵に笑う。



「んーん、また今日みたいに君が呼んでよ。そしたら僕はいつでも君のところに駆けつけてあげる」


「いや、だから呼んでないし。ていうか、わたしは貴方の名前も知らないのよ? それで呼べる訳が……っ!」



 言った途端、首筋にチクッとした痛みが走り、目の前をキラキラと輝く羽根が舞う。


 ――柔らかい何が首筋に触れ、ちゅっと立てる音。



「〜〜〜〜っ!!!??」



 何をされたか理解した瞬間、わたしの頭は沸騰したように茹だり、全身が赤くなるのがわかった。



「な、な、ななな……!!?」



 わたしが首筋を押さえて口をパクパクさせているのを見ると、男の子はにっこりと満足そうに微笑む。



「よし、これでマーキングしたから大丈夫! 僕のことは〝ルナ〟って呼んで! じゃあまたね、リリス!」



 そう言って、ご機嫌で『ルナ』と名乗った自称召喚獣はふよふよとどこかへと飛んでいく。

 それを呆然と見送って、やがて見えなくなったところでわたしはへなへなと崩れ落ちた。



「マーキングって何……? ていうかなんでわたしの名前知って……」



 ぐるぐると纏まらない頭では何を考えても堂々巡りで、わたしは暫し屋上で呆けていたのだった。




=落ちこぼれの召喚士・了=



次回『召喚獣には頼りません』

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