変わる世界 4
「ふふ。リリスちゃんとルナくんは本当に仲が良いんだね。今朝二人が大勢の人に囲まれてたのをわたしも遠くから見てたよ。リリスちゃんをお姫様抱っこしてルナくんが飛ぶの、すごく素敵だったな~」
「あ……あれアンヌも見てたんだ……。恥ずかしいし、忘れていいよ……」
アンヌは何故かウットリとわたし達を見つめて頬を染めている。
さっきは逃げるのに必死で周りを見る余裕なんてなかったけど、その様子を人から客観的に語られると、まるで黒歴史を晒されたようで居た堪れない。
「照れなくってもいいよ~。みーんな素敵だって盛り上がってたし! リリスちゃんならきっとエリザベッタ様のお茶会にも招待されるよ~」
「〝エリザベッタ様のお茶会〟?」
聞き慣れない名前だ。
素直にそれを言うと、アンヌは「エリザベッタ様っていうのはね~」と優しく教えてくれた。
「高等部の生徒会長さんで、この魔法学園の理事長の娘さんでもあるの。まさに才色兼備を体現したような方で、大の召喚獣好きでも知られているよ~」
「へぇー、召喚獣好きの生徒会長。そのお茶会っていうのは?」
「生徒会の集まりのことをエリザベッタ様は〝お茶会〟って呼んでいるの。お茶会には時々ゲストを招いてて、それもかなり珍しい召喚獣持ちの子しか招待されないって噂だよ。
エリザベッタ様に気に入られれば生徒会役員になれる可能性も高いし、お茶会に招待されるのは高等部生にとって最高のステータスなんだよ~」
「ふーん……」
なるほど。ステータスには興味無いが、そのエリザベッタ様とやらは高等部ではかなりの力を持った人物らしい。そういえばアダムも、S組を創ったのは今の生徒会長だと言ってたっけ。
中等部までは生徒会なんて全く縁がなかったが、わたしの召喚獣は珍しさにかけてはナンバーワンだ。もしかしたら関わることになることも考えておいた方がいいのか……。
『皆様、静粛にお願いいたします。まもなく入学式を始めます』
アンヌと話していたらあっという間に開式の時刻になったらしく、アナウンスが流れる。講堂中でしていたお喋りの声は止み、そこからはあっという間だった。
司会の進行のもと、相変わらずの長い学園長の祝辞、続いて来賓の挨拶と、滞りなく式は進行していく。
そして――。
「リリスちゃん、今からエリザベッタ様の挨拶だよ」
「え、あれが?」
アンヌに言われてステージに注目すれば、一人の女生徒が演説台へと移動しているところだった。ステージを歩く度にコツコツという音が響き渡る。
どうやら学園指定のローファーではなく、黒の編み上げヒールを履いているようだ。そして演説台に着き彼女が正面を向いた時、何処からともなくあちこちから感嘆の溜息が漏れた。
艶やかな長い銀髪はキレイに巻かれ、大きな薄い紫の瞳と、ふっくらとした真っ赤な唇はなんとも蠱惑的である。更にスタイルも同じ制服でどうしてこうなったと言いたくなるくらい華奢なのに女らしい体つき。
才色兼備というアンヌの言葉は誇張ではなく、真実生徒会長はど迫力の美女だったようだ。
生徒会長は長い銀髪をかき上げ、白魚のような指でマイクを持ち上げる。その何気ない仕草までなんだか色っぽい。
「新1年生の皆さん、ご入学おめでとうございます。わたくしは高等部生徒会長、エリザベッタ・ノーブレと申します。以後お見知り置きを。ふふっ、今年も素敵な召喚獣をもつ方々が多くて、わたくしとっても嬉しいわ」
――と、そこで生徒会長は言葉を切り、チラリとわたしに視線を向ける。そしてそのまま隣へと視線を移し、じっとルナを見ていたので、わたしの心臓がドキリと跳ねた。
「特に今朝も大立ち回りをなさっていたリリス・アリスタルフさん。つい先日まで召喚獣をお持ちにならなかったのに、突然こんなに美しい羽根を持った男の子を召喚なさるなんて……。皆さん、夢のようなお話だと思いませんこと?」
名指しされ、生徒会長に向かっていた周囲の視線が一気ににこちらへと向く。
慣れない周りからの羨望の眼差しにどう流していいのか戸惑うが、それ以上に先程の生徒会長の言葉からルナに対する強い興味を感じ取り、なんだか胸がモヤモヤする。
思わず膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめると、ルナの手がその上に重ねられた。
「――――っ」
ハッとして隣を見ると、ルナは優しく微笑んでいる。その表情と重ねた場所から伝わる温かい体温を感じれば、不思議とモヤモヤは落ち着いていった。
しかし生徒会長の話はまだ続いている。
「それでわたくし、今一番旬な有名人のお二人と直接お話をしてみたくなりましたの。後日招待状を届けさせますわ。是非わたくしのお茶会にいらして」
その瞬間、講堂中がわっと色めき立った。今度は視線どころか、あちらこちらで噂をされている。
というかお茶会!? ついさっきまでもし招待されたら〜程度にしか考えてなかったのに、展開が早過ぎる!!!
「……ね、ねぇアンヌ。お茶会って断ったらどうなるの……?」
言いながらアンヌの顔を見て後悔した。
何故なら色めき立つ周囲と同じく、アンヌも目を爛々にしてわたしを見ていたのだから……。