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変わる世界 2



「……ねえルナ、なんかわたし達、妙に視線集めてない?」



 校舎に入って数十秒。

 今日は入学式ということで、正面玄関には大勢の生徒が集まっている。しかし何やらみんな様子がおかしい。

 なんというかわたし達が現れた瞬間、入学式前の浮かれて賑やかな空気が変わったのだ。普段の様子を取り繕いながらも、みんなが一様にこちらをチラチラと探るように見ているというか……。



「確かに四方八方から僕たちに強い視線が向けられてるよ。リリスが嫌ならこちらを見れないようにするけど?」


「なんか怖いしやめて!」



 ルナはなんてこともないようにしれっと言うが、それ絶対何か恐ろしいことを魔法でするやつだ!! 全力で却下する。



「ちょっと気になったから言っただけ。ただそれだけで、別に嫌ではないよ」


「ふーん。まぁ、リリスがいいならいいけど」



 そもそもわたしは悪い意味で学内の有名人なのだ。こういった視線には慣れている。むしろ今向けられている視線からは嘲笑や蔑みといった負の感情は感じないので、落ち着きはしないが嫌な感じは本当にしなかった。


 それに考えてみれば、今わたしの横にはルナがいるのだ。こんな人型に真っ白な羽根を生やした目立つ存在が隣にいれば否応なく目立つのは当然だと思えた。

 恐らくこの視線の正体はルナへの好奇の視線といったところだろうか。


 そう結論付けて、自分のクラスを確認しようと正面玄関入ってすぐにある大きな掲示板の前に向かう。

 するとそこで見慣れた栗毛色の男子生徒の後ろ姿が目に入った。



「あ、アダム! おはよう!」



 まだ完治していない背中は避けて、ポンと肩を軽く叩けば、濃い栗毛色の髪に黒茶色の瞳、それにソバカスがチャームポイントの少年―― アダム・ウィルソンが驚いたようにこちらを振り向く。



「おーリリス……はよ。なんだそいつも連れ歩いてんのか? しかも手まで繋いで仲いいんだな」



 アダムはルナを嫌そうに見た後、そのまま繋がれたわたし達の手へと視線を向ける。そっ、そういえば手を繋いだままだった……! 

 指摘されて恥ずかしいので離そうとするが、しかしルナはそれに逆らうようにわたしの手をぎゅっと握って離してくれない。



「ルナー? ごめんもう不安も解消したし、離していいよ?」


「やだ。リリスはしっかり掴んでないと僕を置いてフラフラするから絶対離さない」 


「え、ええー……?」



 ルナもまたアダムを嫌そうに見て、よく分からないことを言う。なんとか宥めすかせようとするが取り付く島もなくて、結局手を離してもらうことは諦めるしかなかった。



「……リリスお前、こいつとどっちが召喚士か分かんねーぞ」


「気にしてるから言わないで……」



 アダムに呆れて指摘され、わたしはガックリと肩を落とす。



「そんなことよりリリス、クラスの確認するんでしょ?」


「あ、そうだ! ヤバい、忘れかけてた。わたし何組だろ? アダムと一緒ならいいね!」



 貼り出されたクラス名簿を目で追いながらアダムに言うと、途端にアダムは「はあ!?」と驚いた声を上げた。



「リリスお前、何言ってんだ!? お前は名簿なんて見るまでもなく、S組に決まってんだろ!!」


「〝S組〟……?」



 聞き慣れない単語に内心ハテナになっていると、アダムが「ほらアレだ」と、S組と書かれた名簿を指差す。見てみると、確かにそこにはわたしの名前があった。


 しかし……。



「ふーん、このS組だけリリス含めて5人しか生徒が居ないね。他のクラスはだいたい20人近く居るのに」


「そうだよね、わたしもそこが気になった」



 思っていた疑問をそのままルナが口にしたのでわたしも同意すると、アダムが溜息をつきながらも教えてくれた。



「召喚獣のこいつはともかく、リリスは知っとけよな……。ここ数年前に今の生徒会長が創った制度らしいけど、高等部からは通常のクラス分けとは別に、その学年の上位5人のレア召喚獣持ちで編成される特別クラスがあるんだよ。それがS組」


「生徒会長……? レア召喚獣って……」



 確かにルナのように常にわたしの隣にいて、人の姿で人語を話す召喚獣はレア中のレアだろう。実は学園長の計らいで、ルナは授業等の学園生活もわたしと一緒に送れることになっていた。

 わたしは未だ手を繋いだままのルナの横顔を見上げる。



「それって何の為にレア召喚獣だけ集める訳?」


「さあ? けど生徒会の面子はS組からしか選出されないっていうし、次期生徒会候補って意味があるとか? ……つーかこれから気をつけろよリリス、S組ってのは普通の奴らにとっちゃ……」


「――待った」



 アダムの話を遮るように突然ルナが口を挟んだ。

 それに何事かと口を開いた瞬間、



「囲まれてるよ」


「!!」



 ルナの静かな声に、わたしは弾かれたように周りを見回す。

 


 すると、人、人、人。



 いつの間にかわたし達は、大勢の生徒達にぐるりと囲まれていたのだった。



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