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夜を照らす月の光 8



 ふわふわと漂う空の上。そこからわたしは満月によって綺麗に照らし出される王城をぼぅっと見つめる。



「なーんかさぁー」


「え!?」



 耳元で囁くように呟かれて、わたしは弾かれたように顔をルナへと向けた。



「リリスってば、今デートとは別のことを考えてたでしょ? 僕と一緒にいるのに酷いなぁー」


「ええっ!? それは、その……っ!」



 兄様のことを一瞬考えていたのがバレてしまい、わたしは動揺して目を泳がせる。するとそんなわたしの態度が気に入らなかったのか、ルナが頬を膨らませて口を尖らせた。



「さっきは楽しそうに見えたけど、ホントはつまんなかった? 僕と一緒にいるのは嫌?」



 その表情はどこか傷ついたように見えて、わたしは慌ててルナに言い募った。



「違うよ! 確かに王城を見てたらちょっとだけ兄様のこと考えたけど、だってそれは……」


「……それは?」



 ぐぐっとわたしに顔を近づけて探るように見つめてくるルナに、せっかく治まっていた鼓動がまた速くなる。

 言うのが恥ずかしくて口をモゴモゴとさせるが、そうしている間にもどんどんルナの顔が近づいて来て、わたしは耐え切れずに叫んだ。



「それは別のこと考えてないと、ルナのこと意識し過ぎてドキドキが止まらなかったから……! だから楽しくないなんてないから!!」


「……リリス」


「ふぇ!?」



 必死に伝え終えると、ぎゅうっと頬がルナの胸に押し付けられた。そしてそのまま頭を撫でられてポカンとしていたが、ようやくこれは抱き締められているんだということに気がついて、わたしの頭が茹だりそうになる。



「ル、ルルルルナ!!?」


「――ねぇ、リリス。僕のこと意識し過ぎてドキドキが止まらなかったんだ?」


「~~~~っ!!」



 言葉で指摘され、羞恥心から今度は全身が茹ってきた。



「いいいいや!! これはなんというか、言葉の綾っていうか……!!?」


「よかったー。意識してたのは僕だけじゃなかったんだぁ」


「へ……?」



 赤い顔で必死に弁明しようとした矢先に発せられた言葉が、じわじわとわたしの中に浸透する。

 言われてようやく気づいた。

 ルナの手の熱さも、胸を打つ早鐘も――……。



「…………」



 そろりと顔を上げれば、優しく頬を撫でられた。



「はぁ、今ここで天啓も宿命も何もかも全て捨てて、君を連れ去れたらいいのに……」


「…………?」



 憂いを帯びたその表情は満月に照らされ、美しいというよりは最早神々しく、まるで聖なるものと対峙しているようで恐ろしく感じる。

 なのに同時に、息がつまるほど苦しく切なくて、小さな子供のように愛しんで抱き締めてあげたいとも思ってしまう。


 相反する感情がわたしの中でぶつかり合い、なんとルナに伝えたらいいのか戸惑う。


 しかし意を決してわたしが口を開いたその時、



 ――ぷに。



 バカっぽい効果音が自分の頬っぺたから聞こえた。



「ふ、ふゅにゃ? (ル、ルナ?)」


「ぷっ、くく。リリスって頬っぺた柔らかいね」



 みよーんみよーんと両頬が引っ張られる。



「ふゅにゃ! ふゃにぇえってにゃ! (ルナ! 止めてってば!)」


「ふふ。ごめんね、いきなり変なこと言って。ほら、デートを再開しよう」


「……もう」



 さっきまでの雰囲気が嘘のように、ルナはいたずらっぽい顔で笑う。

 誤魔化されたって思うけど、誤魔化してくれて良かったとも思った。


 だってさっきのルナの憂いた表情は、何かとてつもなく大きなものを抱えているように思えた。

 自分の召喚獣だというのにルナのことを何も知らないわたしには、掛けられる言葉などひとつも持っていなかったのだから――。



 * * *



 それからわたし達は街のマーケットや有名なデートスポットである時計塔、更には王国一の舞台が観られる大劇場などを空から見て回り、そして最後にこの場所(・・・・)へと戻って来た。



「学生寮の屋上……。なんだかめちゃくちゃ懐かしく感じるよ。まさかあの時の胡散臭い自称召喚獣が、本当にわたしの召喚獣になるなんてねー……」



 気持ちのいい風に吹かれて、柵に手を付いてしみじみと呟けば、横にいるルナは心外とばかりに頬を膨らます。



「胡散臭いなんて酷いなー。僕はただいつだってリリスのことを想っているだけなのに」


「うん。知ってる」



 言った途端、珍しく驚いた顔になるルナに可笑しくなる。



「ルナがわたしのこと考えてくれてるのは、まだ数日だけど一緒に過ごしてよく分かってるよ。デートに誘ってきたのもわたしが街に行きたがってたからでしょ? この服も、ね」



 ワンピースの裾を少しつまんで、頭一つ分背の高いルナを見上げて笑ってみせる。すると突然手のひらで視界を塞がれた。



「わっ!? ちょっとルナ、何すんの!?」


「……リリスってホント天然。不意打ちは参るよ。はー、こんな天然で来月から高等部なんて、僕は心配だよ」



 わざとらしく大袈裟に嘆くルナに、わたしは手を払いのけて言ってやる。



「だからルナが守ってくれるんでしょ! これからよろしくね、わたしの召喚獣さん!」




=夜を照らす月の光・了=



次回『変わる世界』

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