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夜を照らす月の光 5

※エルンスト視点



「杞憂ならばいいのですが、リリスの神託が現実になろうとしているのかも知れません」



 私がそう告げると、学園長は金茶色の長い髭を撫でて思案するような仕草をした。



「神託……私も聞きかじった程度だが、アリスタルフ嬢が〝神の祝福〟を受けた時のもの、だったね」


「あんなものは祝福ではありませんよ。……呪い(・・)だ」



 当時のことを思い出し私が怒気を隠さず言うと、学園長は口を(つぐ)んだ。

 私の妹――リリス・アリスタルフに(もたら)された神託は極一部の人間にのみ知らされており、公には秘匿されている。当のリリス本人すら、自らの神託の内容を知らされてはいない。



 世界は神が創り、人を創った。

 神は人に命を吹き込む為、名を人に与えた。

 これを神の祝福という。



 この神話の一説になぞるように、教会では神の祝福を〝神託〟と称して、全ての生まれた赤ん坊に名と共にその子の未来の予言を与える。

 神の祝福を受けなければ人になれない。

 そんな教えがこの魔法王国ラーには深く根付いており、リリスもまた15年前のあの日、神託を受けた。



「あの日のことは私も一緒に教会に居たので、今でも鮮明に覚えてますよ」



 私は自嘲して暗く笑う。



 神に見捨てられし穢れた娘。

 夜の魔女、リリス。

 夜を纏いしその時は、神の御使いが魔女を討ち取らん。



 リリスの神託を聞いた父上と母上の取り乱しようは当時4歳だった私にはとても恐ろしく、幸せだった家族はその日を境に一気に地獄へと叩き落とされた。


 子煩悩だった父上は、いつか神の御使いに討たれる娘に情を移さぬようにと、リリスに一切関わろうとはしなかった。

 明るく優しかった母上は、神託が事実だと証明するように、リリスが成長するにつれて私と同じだった金髪と青い瞳が黒く染まっていくのを見て、心を病み塞ぎ込んだ。


 私はそんな鬱屈とした家に嫌気がさし、7歳になり魔法学園に入学することが決まった瞬間、これ幸いと入寮を選択して実家には戻らなかった。

 神託の事など何も知らない妹が、壊れた両親に愛されようと必死に愛想を振りまき、絶望していくその様を直視し続けるのが怖かったから。


 そう、私は逃げたのだ。崩壊した我が家から、幼い妹を見捨てて――……。



『今まで召喚獣を召喚出来なかったから疑う気持ちはわかりますが、ルナは正真正銘わたしが召喚したわたしの召喚獣です! 兄様にそれを認めるとか認めないとか言われる筋合いはありません!』



 あの時のリリスの泣きそうな顔が頭に焼き付いて離れない。



「リリスが魔法学園に入学してからもほとんど関わろうとしなかったのに、今更兄ヅラなんて我ながら本当に呆れます」



 そう私が呟くと、それまでじっと話を聞いていた学園長が口を開いた。



「君が誰よりもアリスタルフ嬢を案じてきたのは私がよく知っているよ。そう自分を卑下するのはやめなさい」


「…………」



 静かに諭され、感情のままに口走ってしまった自分を恥じる。そして黙り込んだ私を見遣りながら、学園長は話を続ける。


「覚えているかね? アリスタルフ嬢が魔法学園への入学希望を出した当時、私を含め学園関係者は召喚獣を持たない彼女を入学させることに難色を示していた。すると君は私に直談判に来たんだ。妹の望みを叶えたいとね。思えばあれが私とエルンスト君との初対面だったね」


「…………」


「それから私が彼女の退学を提案した時だ。私は彼女がこれ以上学園に居続ければ、周りとの差で潰れてしまうと思った。でも君は彼女は強いからそんな心配は的外れだと言ったね。そして彼女はその通り、強い意思で逆境を跳ね除けてみせた。……なにも側にいて直接言葉を掛けるだけが愛情ではない。それはきっとアリスタルフ嬢も分かってくれる時がくるさ」


「…………」



 まだ言葉を発せずに膝の上に組んだ手をギュッと握り込んだ私を優しく見つめ、学園長はティーカップを持ち上げ、茶目っ気たっぷりにウインクする。



「――さて、柄でもない説教はここまでにして、本題に入ろうか。君が懸念しているのは、〝ルナ〟と名乗る召喚獣が、アリスタルフ嬢の神託に出て来る〝神の御使い〟の可能性がある。……ということだろう?」



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