リリスとルナの夏休み 終
町を挙げてのお祭りは本当に賑やかだった。
大勢の人波に色とりどりの屋台。
みんながみんな思い思いに楽しんでいて、夏らしい熱気を生み出している。
そんな昨日までは違う町の景色をわたしとルナは巡り、最後に湖に辿り着いた頃にはすっかり日が沈んでいた。
「はーっ、楽しかったぁ! 楽し過ぎてつい屋台のご飯食べ過ぎちゃったけど、悔いないや」
「あはは、タコヤキにヤキソバ? リリスすごく気に入って、追加でおかわりまでしてたもんね。でも君の父もリリスの食べっぷりにかなり満足そうだったし、良かったんじゃない?」
「ま、まぁね……」
ルナの言葉に先ほどまでの出来事を思い出して苦笑する。
美味しそうな匂いにつられて珍しい東洋の料理が並ぶ屋台巡りをしていたら、ちょうど仕事中の父様と出くわしたのだが、何故か好きなだけ食べなさいと勧められて、言われるがままご相伴にあずかってしまったのだ。
「つい甘えて食べられるだけ食べちゃったけど、父様一体どうしたんだろ?」
「きっとリリスのユカタ姿があんまり可愛かったからじゃないかな? 素直に口に出せない辺り、君の兄より強情だなとは思うけど」
「え? ……そっか、そうだといいな」
まだまだ親子というにはぎこちない関係だけど、それでも前に進んでいる。
次この場所に戻って来た時には、更に進んでいるのだろうか?
わたし達の関係も、この場所も――。
「わあっ……!!」
その時、人々が一斉に沸いた。
「――――っ」
それにハッと頭上を見れば、たくさんのランタンが次々と湖から打ち上げられて夜空へと昇っていくのが見える。お祭りのメインイベントが始まったのだ。
「すごい……、綺麗…………」
幾重にも昇るランタンが月光に照らされ優しく輝き、それが水面にも反射して幻想的な風景を生み出している。
しばし見惚れ、そして隣で同じく言葉も無くランタンを見つめるルナのユカタの裾を引いた。
「ねぇルナ、人魚さん達もお祭りをこの湖のどこかで見ているのかな?」
「……そうだね。きっと見てるよ。この光景を」
「…………うん」
その言葉に頷いて、周囲を見渡す。
いつの間にかわたし達の周りには大勢の人達がいて、みんな頭上に浮かぶランタンを見上げている。
それにわたしはルナのユカタの裾を掴む手をますます強めて呟いた。
「こうやってたくさんの人が笑顔になるってすごいことだって思う。……でも、その裏で苦しんでいる魔獣がいるのも事実なんだよね……。そのふたつを共生させることって本当に出来るのかな……?」
「元は同じひとつの存在でも、今は違う。簡単ではないだろうね。けど君の父なら一度告げた自らの言葉を曲げることはないだろう。だからあの人魚も彼の言葉を信じたんだ」
「うん。そうだね――」
自然とルナと手が触れ合い、繋ぐ。
もうすっかり馴染んだ体温は、やっぱりわたしを安心させてくれる。
「……わたし、初めは悩んだけど、やっぱりここに帰ってきて本当によかった」
「うん。両親と仲直り出来てよかったよね」
「それもだけど、それだけじゃないよ」
「え?」
わたしの言葉に、ルナは不思議そうにこちらを見た。
それにわたしは微笑んで告げる。
「ルナと出会って本当に色んなことが起きたけど、正直なところ今までずっと夢の中にいるみたいな……。自分のことなのに何もかも実感が湧いていなかったの。でもわたし、やっと本当の意味で覚悟が出来たと思う。わたしが女神の生まれ変わりであることも、この受け取った力のことも。――ねぇルナ、改めてになるけど、わたし頑張るから、ルナも一緒に戦ってくれたら嬉しい」
「リリス……」
ルナは虚を突かれたように一瞬ぽかんとした表情をしたが、次には破顔してわたしの手を引いた。
「もちろん。君は僕が絶対に守るよ。ずっとずっと最期の時まで」
「あ――……」
ルナの薄い唇に、わたしの唇が重なる。
それは人々が空の上のランタンに夢中になっている、ほんのひと時。
けれどわたしにはとても長く、まるで永遠にも感じられた瞬間。
こんな時が、もっとずっと続くといい。
そんな願いを胸に、わたしはこの先きっと待ち受けているだろういくつもの困難を乗り越えていく決意を新たにするのだった――。
=リリスとルナの夏休み・了=
無事その後のお話も最後まで書くことが出来ました。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
リリスとルナはこれからも色んな騒動に巻き込まれつつも、楽しく過ごしていくことでしょう。
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