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リリスとルナの夏休み 18



「――さぁ、出来ましたよお嬢さま!」



 衣装部屋に引きずられ、マリアにされるがままになってしばらく。促されて鏡の前に立てば、いつもとは違う自分が映っていた。



「わぁ……!」



 長い黒髪は三つ編みを編み込んでまとめられ、大振りの白いバラとパールビーズを垂らした簪が刺されている。薄く施された化粧も白地に青いバラが描かれたユカタにとても合っており、普段よりもどこか大人っぽい雰囲気を纏っている。

 我ながらあまりの変貌に思わずじっと鏡を見つめていると、マリアが「ふふっ」とおかしそうに笑った。



「本当によくお似合いですよ。さぁ、ルナ様もお嬢さまの登場を今か今かと首を長くしてお待ちしてるでしょうし、エントランスホールに参りましょう」


「う、うん」



 この姿をルナに見られるのはなんだか気恥ずかしいかも知れない。マリアの言葉にドキドキと頷いて、わたし達は衣装部屋を後にする。

 そしてマリアの陰に隠れるようにしてエントランスホールに出れば、待っていたルナが「あ」と声を上げた。



「リリス」


「ル、ルナ。……どうかな?」



 ゆっくりと目の前までやってきたルナに、わたしもマリアの後ろから進み出る。そして顔を上げてそう言えば、スッと頬に手が伸ばされた。



「あ……」


「リリス……。すごくキレイだよ。キレイ過ぎて誰にも見せたくない……」



 囁くようにそう告げて頬をふわりと撫でられ、わたしの心臓はドキドキと大きく音を立てる。

 そうしてそのまま吸い込まれそうなルナの金の瞳に魅入っていると――……。



「あらあら、二人は仲良いのね」


「!!」



 背後からクスクスと軽やかな笑い声が聞こえ、振り返ってわたしは驚いた。

 何故なら長年ベッドで()せっていた母様が、ワンピースにショールを羽織ってふわふわと微笑みながらこちらへ向かって来たのだ。



「かっ、母様!? 部屋から出て大丈夫なのですか!?」



 思わず側へと駆け寄りその細い体に触れると、母様は困ったように頷いた。



「ええ、本当はもう随分と体調は良くなっていたの。……ただ、ずっと外に出る勇気がなかっただけ」


「母様……」


「――でも、これからもう逃げたりしない。体力をつけて、屋敷の外にも出られるようになりたいの。リリスが頑張ったように、今度は私が頑張らないと」


「あ……」



 そう言った母様の表情は昨日よりもずっと明るく溌剌として見えて、



「……うんっ!!」



 わたしは母様の手をぎゅっと握りしめて何度も頷く。

 すると母様がそんなわたしをじっと見て、ほぅと息をついた。



「それにしてもリリス。そのユカタ、貴女によく似合っているわ。やっぱりリリスには白地が合うと思ったのよ。ルナくんもとても素敵。リリスの見惚れちゃう気持ちも分かるわ。ふふ。こうして二人並んでいると、まるで一対のお人形のようね」


「もっ……、もう! 母様!」



 イタズラっぽく笑う母様に思わず声を上げ、そこでハタと大事なことを言い忘れていたことに気づく。



「あ、そうだ母様。わたし達の為にユカタを準備してくださって、本当にありがとうございます。こんなキレイな格好……、初めてで嬉しいです」


「お礼なんていいの。ずっと貴女には何もしてあげられなかったんだもの、これぐらいさせてちょうだい。喜んでくれて私もとても嬉しいわ。……それにしてもこんなに綺麗なリリス。見逃したとエルンストが知れば、さぞ悔しがるでしょうね」


「違いありません」


「???」



 コロコロ笑う母様と真顔で頷くマリアの会話の意味がよく分からず首を傾げる。

 更にふとルナを見れば二人と同様の表情をしていて、どうやら理解していないのはわたしだけらしい。

 なんだか微妙な疎外感を感じていると、屋敷の外から管楽器の音色が響いて、わたしは音の方へと目をやった。



「? なんだろ?」


「お祭りが始まったのですよ。ランタンを飛ばすのは暗くなってからですが、それまでにも色んな催し物が企画されておりますので」


「せっかくユカタに着替えたのだし、見に行ってきたらどう? 屋台も普段の倍以上出ているそうよ」


「え」



 母様に促されて隣に立つルナをちらりと見れば、スッとわたしの前にその手が差し出された。



「ルナ」


「行こっか。……本当はこんなに綺麗なリリスを誰にも見せたくないけど、君は行きたいんだろ?」



 そう少しだけ複雑そうに言うルナに、わたしはくすりと笑って頷く。



「うん、ありがとう」



 伸ばされた手を握り返し、わたしは母様とマリアを振り返る。



「ではいってきます」


「はい、いってらっしゃいませ」


「いってらっしゃい。ハイネに会ったら、構ってあげてね。あの人もリリスのユカタ姿、とても楽しみにしていたから」


「わ……、分かりました」



 やはり長年の先入観から、父様がわたしのユカタ姿を見たがっているなんて想像もつかない。

 とはいえ他ならぬ母様の頼みなのだ。わたしはしっかりと頷いて、二人に見送られながらルナと共に賑やかな音色が響く町へと向かった。



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