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卒業テストは一筋縄ではない 6

※後半エルンスト視点



 わたしは神様に嫌われている。

 まさかそう思うことが三度もあるなんて。


 ……でも、こんな状況なんだもん。


 何度言ったって、許してくれるよね……?



「グオォォォォォォォオ!!!!!」


「…………っ!!」



 醜悪な二つの犬の頭をもつ化け物の雄叫びがコロッセオに響き渡る。その凄まじい衝撃はわたしの体にまで伝わり、ビリビリと痛い。


 ちょっと待ってよ!? 犬型の魔獣を倒したら、こんな化け物が現れてって、一体どうなってるの!? わたしを合格させない為の新手の仕込みたって、やり過ぎでしょーよ!!!



「きゃああああああ!!!」


「なんだあの化け物!!?」


「みんな逃げろ!!!」



 観客席からはあちこちで悲鳴が上がり、みんなが我先に逃げ出そうと、大パニックになっている。

 つまり仕込みじゃない。本当の本気で想定外に現れた化け物ということだ。



「グオォォォォォォォオ!!!!!」


 

 化け物が雄叫びを上げる度に、ボタボタと涎が地面に滴り落ちて悪臭を放つ。

 未だかつてこんなヤバイ魔力を纏った魔獣に対峙したことなんて一度も無い。

 なんなの? この気味の悪い魔獣は……?


 しかも最悪なことに、魔獣のギラついた視線は明らかに真っ直ぐわたしへと向かっている。

 つまり狙いはわたし。背中をヒヤリとしたものが流れる。


 その時――。



「リリスッ!! こっちだ!!」


「…………!? 兄様!!」



 ハッと弾かれたように声のした方へと視線を向けると、兄様が特別観覧席からわたしの方に手を伸ばしているのが見えた。

 それを認識するが早いか、化け物が動こうとしないのを確認して、わたしは一気に特別観覧席へと走る。


 もう少し! もう少し!


 兄様の差し出す手に向かって無我夢中で走って、わたしも大きく手を伸ばす。



「兄様……!」


「リリス、もう少しだ……!」



 もう少しで、手が、触れ……、



 ――パチンッッ!!



「痛っ!!?」


「何っ!?」



 兄様の手に触れた――そう思った瞬間、突然わたしの手に鋭い痛みが走り、その衝撃で体が地面へと叩きつけられる。



「リリスッ!! バカな! なんだこれは!?」



 兄様がすぐさま今わたしに何が起きたのかを探ろうと視線を動かし、そしてあり得ないというように叫んだ。



「え、何!? 今のなんなんですか、兄様!?」



「結界だ! 観覧席より中を囲うように張り巡らされている……! 一体誰が!? しかもこれは見たこともない魔法だ……!!」


「け、結界!?」



 王国一の王宮召喚士と言われる兄様すら、見たことがない魔法が存在していたなんて驚きだ。

 しかも観覧席より中ってことは……。


 つまりわたしは観覧席側に逃げることが出来ず、化け物と一緒に閉じ込められてしまったということを意味するんじゃないか!!



「兄様! わたしどうしたら!?」


「私は至急この魔法を解析し、結界を壊すことに専念する。……すまないリリス、それまでなんとか持ち堪えてくれ!」


「…………!」



 逃げ道を塞がれ縋るように見上げたわたしに、兄様は絞り出すような声でそう言った。

 その表情は見慣れた人形のような無表情ではなく、苦しそうに顔を歪ませている。


 そんな尋常ではない様子にそれしか術がないのだと悟り、わたしも覚悟を決めて、静かに「兄様」と呼んだ。



「分かりました。やってみます! わたし、逃げ足には自信があるんです! 無理を頼みますが、兄様も解析、なるべく早くお願いしますね!」


「リリス……っ!」


「グオォォォォォォォオ!!!!!」



 なるべく明るく言って、わたしはその場を離れる。

 わたし達の様子を伺っていた化け物が、雄叫びを上げて臨戦態勢をとったからだ。



 ――それに、



 初めて見た兄様の苦渋に満ちた表情を、もうこれ以上見ていたくなかった。



 * * *



「――エルンスト君!」



 バタバタと足音がしたかと思うと、背後から名を呼ばれて私は振り返る。

 息を切らして立っていたのは、生徒達の避難指示に奔走していた学園長とマグナカール先生だった。


 学園長は複雑そうな表情で、化け物と対峙するリリスを見て、次に私へと視線を向ける。



「話は聞こえてきたよ。アリスタルフ嬢のことは君に一任していいのだろうか?」


「元よりそのつもりです。私は結界の破壊に専念します。学園長とマグナカール先生は他の生徒の避難を優先してください」



 私がそう言い切ると、学園長は暫し苦悶の表情を浮かべて沈黙し、やがてゆっくりと頷いた。



「……わかった。学内で君の大事な妹をこんな危機に晒させてしまって本当にすまない。アリスタルフ嬢のことは頼む。――行こう、マグナカール先生!」


「はい! エルンスト様、どうかご無事で……!」



 慌しく走り去って行く二人を横目に私は集中し、静かに詠唱する。



「――我が声に応えよ。神の御使いよ」


「キュオオオオオ」



 すると天から光の柱が降り注ぎ、神龍イシュタルが私の元へと降臨する。


 その金色(こんじき)の鱗は光を受けて輝き、息を呑むほど美しく、神々しい。



「さあ、リリスを助けよう。――イシュタル」


「キュオオオオオ」



 私がイシュタルの鼻を撫でてそう告げると、それに応えるようにひと鳴きして、ふわりと舞い上がった。



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