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天高く届くは女神の抱擁 14



「じゃあわたしの意思はどうでもいいの!? わたしはルナともっとずっと一緒にいたい!! ルナが消えることなんて望んでない!! 女神の生まれ変わりだからじゃないよ。わたしはルナが好きだから、ここまで来たんだよ……!!」



 そう思うまま叫んで、わたしはルナに思いっきり抱きついた。

 ……はずなんだけど、



「――あれ?」



 抱きしめた筈のルナのぬくもりは一瞬で消え去り、気がつけばわたしは何もない、ひたすらに真っ白な空間にポツンと一人で立っていた。



「えぇ??」



 両手をぼんやりと見れば、まだルナの体の柔らかな感触が残っている。



「まさかわたし……、また過去の〝神の楽園〟に来ちゃったとか……?」



 もはやこんな事態も三度目ともなれば慣れてきて、少々のことじゃあまり驚かなくなってきている自分がちょっと悲しい。

 そんなことを考えながらキョロキョロと辺りを見回すと、



「…………あ」



 そして視線の先に、小さな黒い物体が見えた。

 しかし遠くてなんなのかよく分からない。恐る恐る近づいてみることにする。


 すると目の前に現れた黒い物体の正体は――。



「え、貴女」


「……なんでお前が」



 驚いた表情でわたしを見上げるのは、三角座りをした黒髪黒目の10代半ばくらいの見た目の女の子。容貌はわたしにそっくりな上に、髪と目の色まで同じなので、もはや見分けがつかないレベルである。

 しかしわたしは彼女には見覚えがあった。夜の魔女の記憶の中の語り部。常に中心となっていた人物。



「――夜の魔女!?」


女神リリス(・・・・・)よ!! 魔女って言わないでちょうだい!!」


「え、あ、ごめんなさい……」



 魔女と口にした瞬間、かなりの剣幕で怒鳴られたので、思わず条件反射で謝ってしまう。


 しかし本人がどれだけ否定しても、間違いない。目の前の人物は夜の魔女だ。

 確かに夜の魔女は女神リリスの双子の妹なのだから、彼女もまた〝女神リリス〟と名乗ってもおかしくないのかも知れないが……。



「うーん、じゃあ〝女神リリス〟? ……いや、やっぱ紛らわしい! よし、貴女のことはリィ(・・)って呼ぼ! ねぇリィ、ここってどこだか知ってる?」


「!? なっ……! お前、その呼び方は……っ!」



 ギロリと思いっきり嫌そうに睨まれ、我ながらかなり馴れ馴れしかったなと思う。

 しかしまた怒鳴りつけられるのかと身構えたが、夜の魔女は溜息をひとつしただけだった。



「はぁ……。いえ、いいわ別に、呼び方なんでどうでも。どうせわたくしはもう、ルナに力のコントロールを全て奪われているんですもの。騒ぐ気力も起きないわ」


「ルナに? え、ということは、ここは……」


「……そう、――ルナの中よ」


「ルナの、中……?」



 思わずキョロキョロと辺りを見回して目を瞬かせると、夜の魔女――リィは面倒くさそうに口を開く。



「正しくは、ここは心の中にあるほんの小さな隙間の空間……なのだけどね。わたくしは他人の魔力を奪う能力の他に、対象の心の隙間に入り込む能力も持っているの」


「それが生徒会長やアダム、それにルナに憑りついていたカラクリって訳ね」


「ええ。対象の心の隙間に入り込み、意のままに対象を操る。今まで一度だって失敗したことがないから、油断してた。まさかルナが意図的に(・・・・)心の隙間を(・・・・・)開いていたなんて(・・・・・・・・)……」


「意図的って……、普通そんなこと出来るの?」


「出来ないからこそ、油断したのよ!」


「あーなるほど。それで貴女は出るに出られず、こんなところで一人、縮こまっていたんだ?」



 ついまた思ったことをそのまま口にすると、リィがギロリとこちらを睨みつけたので、慌ててわたしは口をつぐむ。



「……そういうお前こそ、なんでここに居るのかしら? ただの人間には、わたくしのような芸当は出来ない筈なのに。まぁでも出る手段も知らなそうだし、お前も人のことは言えないんじゃなくって?」



 鼻で笑うリィになんの反論も出来ず、わたしは苦笑するしかない。



「う、うーん……。確かにどうやって出たらいいのか、分かんないや。気がついたら、いきなりここに居たし……」



 言いながら彼女の隣に腰掛ければ、それを見たリィがとてつもなく嫌そうにわたしを睨んだ。



「ちょっと、何故お前までここで座るの? こんなだだっ広い空間なのだから、座りたいのならどこか別の場所に行きなさいよ」


「え、だって」



 ポカンとして言うわたしに、リィは心底呆れたような顔をする。



「はぁ……。まさかお前、わたくしに命を狙われているのを忘れたの? 言っておくけれど、わたくしはただここで騒いで無駄な消耗をしたくないだけで、別にお前への憎悪が消えた訳ではないわよ」


「うん。それはもちろん忘れてないけど、でもこんな広い場所にポツンと座るのって、なんか寂しいじゃん。リィは一人で居て、寂しくないの……?」


「…………」



 わたしがそう何気なしに問いかけると、今までイライラとした表情をしていたリィがスッと顔色を失くし、真顔になった。


 ――――あ。


 ハッと頭の中で、何度か見てきた夜の魔女の記憶がぐるぐると回る。

 またわたし、余計なことを言ってしまったのかも知れない……。



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